2015年2月22日日曜日

はるかかなたの 



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湘南電車に揺られている。
ああ。今は湘南電車とか言わないのかな。
茅ヶ崎に帰るのは久しぶりだ。
近くて遠い僕の故郷。
グリーン車には誰も乗っていない。
6月の物憂げな光だけが車内に充満している。

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なんだこれ?
僕らは完全に困惑していた。
その飲み物が無駄にキラキラしいて真っ青だったからだ。

ケンジ「だからブルーハワイだって」

午前中早々に海沿いの高校を抜け出した。
校舎の裏に駐車してた愛車(ジョグだのパッソルだのスーパータクト)に乗って、僕らは海水浴場そばの喫茶店でたむろしていた。

僕   15歳 (無免許)
ケンジ 16歳
淳   16歳

いつもの3人。
適当な話で盛り上がっていた。

茅ヶ崎・1984年

ケンジ「君たちこれがカクテルといものだ」

と得意顔で説明してくれる。どうせポパイとかホットドックプレスとかの受け売りなんだろうけど。ハンサムで(でも私服のセンスは最悪)いつも訳知り顔のケンジ。チビでおとなしくて足が不自由な淳。そして僕。

僕  「・・オシャレじゃねーか」
淳  「これ飲めばモテるの?
ケンジ「いーからお前らも頼めよ」
淳  「えー?僕、酒飲んだことない」
ケンジ「うそ」
僕  「で?ケンジこっちは?」
ケンジ「どれ?」
僕  「ソルティドッグとかいうやつ」
ケンジ「・・・・」
淳  「何味?
ケンジ「し、知らねーよ。頼んでみな」
僕  「よし淳、お前が飲め」
淳  「やだよ。ドッグって何だよ。
    犬とか出てきたら困るよ」
ケンジ「んなわけないじゃん」

6月の茅ヶ崎。
まだ静かな海が窓の外に輝いている。
夏になるとビーチは人ごみでごった返す。

淳  「・・・・・」
僕  「縁になんか付いてるぞ?」
ケンジ「砂糖だろ?
僕  「どうやって飲むんだよ?」
ケンジ「だから知らねーって言ってんだろ!!」

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「社長・・お電話が入っています」
「今忙しいって言ってくれ」
「急用とのことですが」
「誰だ?」
「それが・・ケンジと言えば分かると」
「ケンジ?」

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僕  「ユキちゃん?まじで?」
ケンジ「まじだ」
淳  「へ、へー」
   「あんな美人がケンジをねー」
ケンジ「うっせーよ」
僕  「で、どこにデートに行くかだ」

ケンジはマクレガーのしわしわのボタンダウンシャツの襟元を神経質に気にしながら、いつになく自信なさげな顔をしている。

僕  「よし、わかった。
    今晩デニーズで作戦会議な」
ケンジ「あー今晩はだめだ。俺バイト」
淳  「まだ鵠沼のマック?」
僕  「じゃあなおさら鵠沼だな」
ケンジ「お前らみえみえなんだっつの。
    あれはもう作らねーぞ」
僕  「はっはっは」

ケンジのバイトしているバーガーショップで目を盗んで作ってもらう肉の5枚重ねバーガー。僕らはそれをホームランバーガーと呼んでいた。

ケンジ「そろそろバレそうだからよ」

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夜、自宅の二階の窓からコッソリ庭に出る。スクーターを押して家が見えなくなってからエンジンをかけた。国道134号線はねっとりとした濃い潮の匂いに包まれている。時速70kmでかっとばす。

梅雨独特の水っぽい匂いだ。
また夏が来る。
心がうきうきしてきた。
今年は毎日海水浴場でナンパしよう。

バーガーショップではもう2人で熱い激論がかわされていた。

ケンジ「だーかーらー。
    ジャケットくらい着ないとか」
淳  「そりゃそうだよ。
    あの子はオリーブだから
    Do Familyとかだよ?」
ケンジ「お前ユキの事やたら詳しいな。
    つーと、やっぱりあれか?
    リーバイスとヘインズだな?」

やはり焦点はケンジのファッションらしい。リーバイスだったら501だよ?持ってる?淳がしつこくアドバイスしている。

僕  「制服でいいんじゃん?」
ケンジ「アホか。
    日曜日になんで制服着るん
    だよ。お前、彼女の影響で
    紡木たくとか読んでっから
    そういう発想になるんだな」
淳  「きゃっきゃっきゃっ」
僕  「はいはい。あれ?
    なんでケンジ座ってんの?
    バイトは?」
ケンジ「さっきやめた」
僕  「まじで?なんで?」
ケンジ「時給下がった」
僕  「まじで?いくら?」
ケンジ「500円」
僕  「まじで?深夜で?ひでーな」
淳  「ねーねー
    まじで?ってはやってるの?」
僕  「しらねー。最近のクセ」

まじで?って言葉すらまだない
バブル前夜の日本。
僕らの16歳の夏はこんな感じで始まった。

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横浜、山下公園
デート中のカップルが一組づつベンチに座っている。僕と淳は芝生に座ってケンジとユキちゃんを見張っていた。夕方。もうすぐ陽が落ちる。

ケンジ「キスするぜ?俺は」
僕  「できないだろ初デートだぞ」
淳  「できないとかじゃなくて、
    しない方がいいのでは?」
ケンジ「キスできたら何かおごれよ」
僕  「うまか棒でいい?」

というわけで、その証拠確認のために見張っているのだ。

僕  「待ちくたびれたな」
淳  「中華街で迷ってるのかな」

手持ち無沙汰だったから、AIWAのウォークマンにカセットを入れた。ヘヴィメタルが頭の中で爆発する。頭からイヤホンを外して、聞いてみ?と淳に放った。

僕  「やっぱ最高だなACTIONは!
              マイケルシェンカーよりいい」
淳  「えー?今時はマドンナだよ」
僕  「誰それ?」
淳  「ミュートマ見てないの?
              あとマイケルジャとかさ」
僕  「マイケルじゃ?」
淳  「ねー今度公開生放送行こうよ」
僕  「行く行くどこでやってんの?」
淳  「横浜SOGOの地下だって、
              伊藤政則見れるよ」
僕  「へー・・おっと。来たぞ」

ケンジとユキちゃんが公園に入ってきた。ケンジが緊張しているのが遠目からもわかる。なんかぎくしゃくした歩き方だ。ユキちゃんはスラッとした白いワンピース。ケンジは・・。

淳  「あーっ! リーバイス穿いてない」
僕  「あれは・・・ボブソンだな」
淳  「ああっ」
僕  「なんだよ今度はどうした?」
淳  「ベンチが空いてないっ」

淳の言った通り公園内の無数にあるベンチは無数のカップルで埋まっていた。

僕  「まずいな・・・」

5時半にはベンチに座る。
30分ほど話で盛り上がる。
6時に氷川丸の汽笛がなる。
ムード満点の中キスをする。
これがケンジ先生の計画だったのだ。

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僕  「淳」
淳  「何?」
僕  「ちょっとうんこ探してこい」
淳  「え?」
僕  「あと棒な」
淳  「まさか・・・」
僕  「無理矢理席を空けるしかない」
淳  「やだやだ。やだよっ。
    アラレちゃんかよ」
僕  「友情のためだ」

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結局、いくら探してもうんこは見つからなかった。

2人でカップル相手に席を譲ってもらえるようにしどろもどろ交渉してたら、ユキちゃんに見つかった。

ユキちゃん「あれー?何やってんの?」

私服のユキちゃんは本当に美人だった。色が白くて、髪がつやつやしてて。横浜の夕暮れの逆行の中でニッコリ笑ったユキちゃんはハッとするほどキレイで、本当に天使のようだった。

僕  「いや、別に・・なっ淳?」
淳  「うん、たまたまだよー」

淳がやたら真っ赤っかになってモジモジしながら言った。

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その夜。藤沢のディスコ「万華鏡」。
「Tonight is what it means to be young」が流れている。ケンジがユキちゃんとフロアで踊っているのを眺めながら、淳と僕は奥のシートでチークタイムを待っていた。

淳  「この曲・・」
僕  「ストリートオブファイアだな。
    ダイアンレイン主演の映画」
淳  「かっこいいよね」
僕  「なに?聞こえねー」

大音量のユーロビートで淳の声がかき消える。淳の隣に行って耳を寄せた。

淳 「ケンジはかっこいい。
   あの映画の主人公の
   マイケル・パレみたいだ」
僕 「そうかー?」
淳 「僕、好きなんだよずっと前から」
僕 「あー俺も好きだよ、裏ないし。
   ちと服がださいけど」
淳 「じゃなくてユキちゃんのこと」
僕 「は?」

驚いて横の淳を見た。
膝を掴んで淳はうつむいていた。
不自由な方の左足。

僕 「えっと・・。
   それは何ていうか・・あれだ」

淳が僕の視線に気づいて手を膝からパッと離して、へへへと笑った。

淳 「ねー将来なにになりたい?」
僕 「へ?俺?・・・
   ま、漫画家か小説家かな」
淳 「僕は何になれるのかな」
僕 「えーと。」
淳 「僕は未来が怖い」

若年性パーキンソン病。
これが淳の病名だった。

淳 「でもね」
僕 「お、おう」
淳 「言ってみる。告白してみる」
僕 「お、おう?
   え? ま、まじで?」

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保留の電話に出た。

「よお、ひさしぶりだな」
「ケンジ・・どんだけぶりだ?
 なんかあったのか?」

ケンジは地元の建築会社に勤めていたはずだ。ずっと音沙汰なかったのに・・。
いやな予感がした。

「淳か?」
「ああ」
「まさか・・」
「いやまだだ。しかしちょっとな・・。
 会って話したいんだ。
 次の日曜日に時間とれないかな?」
「わかった。行くよ」
「悪いな忙しいだろうけど」
「いやいいよ」
「しかし本当にお前が家具屋になるとはな」
「そうだな。お前らがそのきっかけを作ってくれた。感謝してるよ」
「そのへんの話はまた日曜日な。えーと場所は・・」
「デニーズか?」
「お前本当に茅ヶ崎に帰ってないんだな
 あそこはとっくになくなってるよ」

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久しぶりの茅ヶ崎駅のホームは水の匂いがした。改札を降りて南口を出た。タクシーを拾おうとして考え直した。歩いて行こう。雄三通りを海へ向かった。スーツのジャケットを脱いだ。この街には似合わない。

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大きな入道雲と青空の下で僕らは汗だくになっていた。浜見平団地の大型廃品置き場。僕の目当てはソファだった。

ケンジ「ホントにここか?」
僕  「間違いない。
    昨日運び込まれるの見たんだ」
淳  「なんでソファが必要なの?」
僕  「自分の部屋に彼女来る。
    何か飲む。おしゃべりする。
    そのあと何する?淳君?」
淳  「マンガ読む?」
ケンジ「はっはっは。子供か?
    コロコロコミックか?」
淳  「なんだよう」
僕  「布団出すわけいかないよな」
ケンジ「なるほど。頭いいな」
淳  「あーなんか楽しいね」
ケンジ「あー?」

思うんだけどさ・・って
淳が空を見上げて言った。

淳  「人生をただ楽しむ、それ以外に
    必要なものなんてあるのかな


不純な動機こそが僕らのエネルギーだった。田舎の海沿いに住む高校生のやることなんてたかが知れてる。海でサーフィンして音楽聞いて家帰って彼女と遊ぶ。人生をただ楽しむ。それ以外に必要なものなんてあるのかって?・・あるわけないだろ。純粋にそう言い切れた季節だ。でも大人になるといろいろとあって、なかなかそういうわけには行かなくなってくる。それはしょうがないことだ。

たわいない冗談を言い合いがら
ボロボロのソファを運ぶ僕ら。
その上に、
神さまからの祝福のように、
天気雨が降り注ぐ。
遠くに虹がかかる。

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家具屋になったキッカケって何ですか?40を過ぎてからそういう質問を受けることが多くなった。いつもあたりさわりないことを答えるけど。そういう時はいつも、僕は頭の中であの光景を思い出している。三人で運ぶソファと天気雨と遠くの虹。

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ケンジ  「というわけでさ」
ユキちゃん「そんなこと言われても」
ケンジ  「だよな」
ユキちゃん「どうして欲しいの?」
ケンジ  「うーん」
ユキちゃん「わかった。
      私、淳君の話聞いて、
      ちゃんと考えてみる」
ケンジ  「え・・?」
ユキちゃん「その上でケンジ君を選び直
      す。私が淳君の立場だった
      らそうして欲しいって思う
      から」

これは後日ケンジから聞いた話。
ケンジはこの時生まれてはじめて
恋に落ちた。

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ケンジ「なー」
僕  「ん?」
ケンジ「キスするより大事なことって
    ・・・あるんだな」
僕  「はいはい。お幸せに」

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シークレット・ミニビーチ。国道134号線を横切って防砂林の松林を抜けた。車の入れない、地元の人間しか知らない小さなビーチだ。ユキちゃんは、どこにもつながらない作りかけの舗装道路の上に立っている。遠く伊豆半島と箱根山の間くらいに陽が落ちようとしていた。

僕  「かっこつけろよ、淳」
ケンジ「淳・・何て言うか・・俺・・」

淳はモゴモゴ言っているケンジを睨みつけた。真っ青な顔をして。少し震えている。そのまま動けないでいる。

僕  「怖いもんなんてねーよ。
    俺たちにはよ。
    プライド失くすこと意外はな」
淳  「それいつもの口癖だね」
僕  「お、おう。こう言ってると
    強くなれる気がすんだよ」

淳の顔がキッと引き締まった。そして、ふっと歩き出した。足をひきずって歩く淳がすごく大きく見えた。

ユキちゃんが振り向いた。夕陽のシルエットが2人を包んだ。淳は頭をせわしなくかきながら、身振り手振りで、おそらく彼にとってこの世で一番大事な想いを伝えていた。

ケンジ「なあ・・」
僕  「ああ。かっこいいやつだよ」
ケンジ「おれたち変わんねーよな」
僕  「おう。変わんねーよ」
ケンジ「先に行ってようぜ」

2人を置いて歩き始めた。
今日は夏祭りだ。
このあと4人で行くことになっていた。
これからもきっと笑って話せる。
俺たちは大丈夫だ。

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約束の場所。シークレット・ミニビーチ。くたびれたネズミ色のスーツのケンジが立っていた。そしてその横に車いす。何重にも毛布にくるまれた淳がいた。老けてその上ひどい顔色だったけど。間違いなく淳だった。クリッとした目が微かに揺れた。

「ケンジ、ひさしぶりだな」
「ああ。相当ぶりだ」

しゃがんで淳の顔を覗き込む。

「淳?」
「やあ・・・久しぶりだね。ごめんね・・仕事忙しいのに。それと・・・すごく活躍してるみたいじゃないか」

とぎれとぎれの細い声。
ケンジが右手で両目を覆っている。

「淳、なんていうか、その・・連絡もしないで・・俺」
「そうだよ。ひどいよ。今日は僕、一言だけ言いたくてさ」
「ああ。なんでも言ってくれ」
「青山とかミラノもいいけど、もう一度茅ヶ崎にお店を作ってくれ。ここ以外に僕らにとって大事な場所があるはずないだろう?」
「ああ、ああ。わかった。約束する」
「あとね、今の君の仕事のきっかけは僕たちが作ったんだぞ。憶えてるかい?ソファ運んだじゃん。それを忘れないで欲しいんだよ」
「もちろんだよ。わかってる」

「僕はもうすぐ行く」

淳はあの時と同じ、キッとした表情でそう言った。伊豆半島と箱根山の間に陽が落ちようとしている。大きな入道雲が薄むらさき色に染まっていて、アスファルトが足もとでまだ熱を持っていて・・・。

「淳、淳。行くとか言うなよ。また遊ぼうぜ? 俺らよ、すっかりおっさんになっちまったけどよ、また、ナンパとかしようぜ? つーか俺もう結婚してんだけどな、でも全然つきあうぜ?な?うんこ探せとかもう言わねーしよ。だから行くとか言うなよー。おい、聞いてんのかよ! ! 頼むからよーー」

堰を切ったように泣き出してしまった。ボロボロと毛布に涙が落ちた。淳が優しい顔でそんな僕を見ている。ケンジは遠く、海の向こうを見ている。肩が小刻みに揺れている。やがて淳が口を開いた。

「それとね、お礼を言いたい」
「え?」
「怖いもんなんてねえ。プライドを失くす以外はよー」
「・・・・」
「僕は君のその言葉でここまでがんばれた」
「淳・・」
「本当にありがとう」

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はしゃいだ僕ら。金魚すくって、射的やって、よその高校の奴らとちょっと揉めて。楽しいな人生ってのは。僕がそう言うとケンジがなんかちゃかしたことを言った。次はどうする?・・って今なら何やっても楽しいって自信があるんだ。

ケンジ「やっぱりあれだろリンゴ館!!」
僕  「リンゴ飴だろ?」
淳  「ケンジ漢字読めないからね」
ケンジ「うっせーな淳は。
    ねるねるねるねでも食ってろ」

ユキちゃんが淳とケンジの間で笑っている。

僕  「明後日は花火大会だろ」
ケンジ「だなー」
淳  「楽しみだね」

ちょっと間を置いて淳が言った。

淳  「ねー、前も言ったけどさ、
                野田はどう思う?」
僕  「何の話だっけ?」
淳  「人生を・・・」

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人生をただ楽しむ。それ以外に必要なことなんてこの世の中にあるのか?

そうだね。
淳・・。

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ないよ。
あるわけないよ。

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end





2015年2月9日月曜日

義経寒梅




とある2月の寒い朝。
僕は田舎駅のホームに立っていた。
里の坂道を目で下ってその向こう。
遠くの海がきらきらと朝日を浴びている。

ホームの端。
梅の小さな木が咲いていた。
その姿がなぜか無性に美しくて携帯で写真を撮った。
「あ、あの木でしょ」
「あの木がどうしたの?」
観光客とおぼしき2人組の女性が、
電車を待つ僕の後ろで会話を始める。
「さっきのお寺の古梅の子どもなのよ」
「あの枯れた義経梅の?」
「そう。市役所が株分けしたんだって」
「株分け?ああ、それは良かったわねぇ。元気じゃない」

はっとして、僕はもう一度その梅の木を眺めた。
はかなくも毅然と立っている。
そうか。
その方法なら、なんとかなるか。

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最近コンサルの依頼が多い。
家具屋さんからのコンサル依頼だ。
でも僕は5年前にその仕事はやめた。
理由はいろいろあるけど、
簡単に言えば、自分の家具事業に
しっかり腰を据えたかったからだ。
最近は依頼があっても丁寧にお断りしている。

ところが、2ヶ月前に、大きな企業からご連絡をもらった。
その会社の社長は以前、とある団体でお世話になったことのある方だった。
むげに断れなかった。
事業案だけでも見てもらいたいとのことだったので、足を運んだ。

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拡大策。
その事業案にはこれでもかってくらい夢がいっぱい詰まっていた。
でも、僕にはどうしてもそれらが単なる夢にしか見えなかった。
人とモノとお金の概念がストンと抜け落ちていた。
「現状、この案で事業規模の拡大は不可能ではないでしょうか」
思ったことを一生懸命お話しした。
しかし先方の社長は尊大な顔をして、
桶狭間の戦いとかニトロはニトロで消すとか、
そんな話をひとしきりされた後、
「否定するなら代替案くらい出しなさい」
と言った。
行き詰まった大企業の拡大案。
正直に言って僕にはまったく想像もつかなかった。
「すみません。考えつきません」
横にいた専務が『そら見たことか』という顔をした。
恥ずかしくて顔が赤くなった。

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戦後の家具屋は家具を売っていればよかった。
家具のジャンルは多くても2、3種類しかなかったからだ。
昔のレコード屋と同じだ。
音楽も当時はクラシックとポップと演歌くらいしかジャンルがなかったのだ。
そう言うと、いやいや君、ウチはあらゆるジャンルの家具を揃えているぞ。
そう言う家具屋さんは多いかもしれない。
でも、実際はその「あらゆるジャンル」が単純に3〜4種類からの派生に過ぎなかったりするのだ。

いや、違うか。
そもそもそれ以前の問題なのだ。
モノが行き渡った現在の日本では、
「あらゆる」という考え方が無効になりつつある。
青息吐息の百貨店がいい例だ。
「あらゆる」は「たった一つの」に変わろうとしているのだ。


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「僕は、この時代の家具屋は仕入れたりしていたらダメだと思います」
「また、そういう核論を言う」
やれやれといった感じで社長が頭を振る。
「ではどうすればいい?」
横から専務が口を挟む。
「作るんです」
「作る?家具を?販売店が?」
「はい。家具を作ること自体も大事ですが、定価をつける権利を持つんです。また、オリジナルというのは御社だけの家具という意味です。もう百貨を持つ時代ではありません。たった一つのどこにも負けないオリジナルを作りましょう」
「フロアがもたないだろう」
「そ、そうですね」
「そんな人材もいない」
「そ、そうですかね」
「うーん。今のやり方を変えずにうまく行く方向はないもんかな」

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今のやり方を変えずにうまく行く方向?

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梅の木が寒風に揺れている。
電車が入ってきた。
2人連れの女性を乗せて走り去った。

株分けだ。
ある意味、禁断の方法が頭をよぎった。
会社を複数に分けるんだ。
この梅の木のように。
それは大きな痛みを伴うだろう。
しかし、
できるんじゃないのか?
問題はお金を絶やさないようにすることだ。

貸借と損益はだいたい覚えている。

頭で計算する。
まずは止血。
銀行の許容度。
早期退職制度。
フロアのレンタル方法。
広告出費を逆に収入にする方法。
ここまでは大丈夫だ。ギリギリだが、できる。

別会社・・作る。
不採算部門の一部を移す。
そのまま塩漬け保存。
分母を小さくする。
そのまま〇〇金額(伏せます)を操作。

しかし新規借り入れは不可能。
社債、現実的ではない。
投資企業。
キャピタル系は避ける。というか無理。
個人投資家。個人投資家・・・。
そこでバチンときた。
いるいるいるいる。うってつけがいるじゃないか。
そうなれば、がぜん現実味を帯びてくる。
さらに取締役外名義の新々会社を2社・・作る。
MBO?さすがにそれは無理か。
まあいいや。
そこはいくらでも方法がある。
破産申告。
元会社処分。
新会社でメーカーを買う。
買い先。
メーカーK社もしくはD社。
彼らは喜んで応じるだろう。
メーカー社長の席をそのまま確保。
先代との約束なんて知ったことか。
最後の仕上げ。
メーカー機能を持った新会社と新々会社2社を・・・。

バランス。タイミング。
大事なのはこのたった2つだ。
バランス、タイミング。
バランス、タイミング。
ノートを取り出した。書き込んでは書き込んでは
何度も試算を繰り返した。

机上の試算。いやホーム上の・・か。
しかし、この結果だったら充分試す価値がある。

ノートの右隅。

最後の行には、
300坪のお店を持った新々会社が強く小さく残っていた。
小さく?いや、むしろ最強の利益剰余金の可能性を携えてる。
魔法のようだが魔法ではない。

もう一度、梅の若木を見下ろした。
目の前のこいつのように。

いけるかもしれない。
いや、いける。
携帯を掴んだ。

***********************************

携帯の向こう。専務の冷たい声。
「あ、あの話ね。もう別の人に頼んだ」
面識はないが知った名前。名うての事業整理屋(腑分け屋)の筆頭だ。
「でも専務。生き残るにはまずは小さく・・」
「ウチはまだまだ大きくなるんだよ、起死回生だ」
「起死回生・・・」
「そうそう。戦略名は『桶狭間』に決まったよ」
「桶狭間・・・」
「まあ、そういうことだから」

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大きな陸橋を列車は走る。
切れた携帯をそのまま右手に持ちながら、
ボックス席の車窓から外を見ている。
「ははっ」
自分の小さくて渇いた笑いを聞いた。

冬のような
春のような
そんな日差しが海に注いでいた。


2015年1月19日月曜日

15号車夢録





新幹線でうとうとしている。
15号車。誰も乗っていない。
結露した窓を指で抜く。
寒そうな関ケ原。風がびょうびょうと鳴っている。
音は聞こえない。もちろん聞こえないんだけど。

A-4という椅子を開発した。
万人に好かれる椅子とはなんだろう。
ずっとそう考えてデザインした椅子だ。
自分の店だけで売るのはもったいない。
出来上がったA-4を見てそう思った。
友達の家具屋にも紹介したい。
そんな訳でこうして西に向かっている。

朝露の野営地。
テントを出た途端の不吉な曇天。
リチャード(1世)は思う。
何もないこの荒野にどれだけの価値があるというのか。
視線の先に苦虫を噛み潰したようなフィリップ(2世)の顔。
わかっている。わかっているが。
「おはよう。まだやろう」
盟友の肩を抱いた。
この山並みの向こうで奴が待っている。

それにしても。
寒い車両だ。
寒くて暗い。
一度脱いだコートを着込んであたりを見回した。
熱いコーヒーが飲みたかった。
車両の向こう、デッキに人影。
ワゴン販売の女性が顔から入ってきた。
ゆっくりと僕に近寄ってくる。

サラディンは悲しく透き通った目をしていた。
リチャードは奥歯を噛み締めてかろうじてそこに立っていた。
「我々は遠くから来た」
「そして遠くまで行くのだ」
内蔵を吐き出すようなリチャードの言葉に
サラディンは微かに頷いた。
リチャードの側兵が背後でジリッと動いた。
サラディンが静かに唇を割った。
「私たちは・・」

その女性から受け取ったコーヒーを手に取った。
おつりの硬貨を渡された。
ほぼ表情のないその女性が一瞬窓の外に顔を向けた。
私は両手で暖かいカップを持ったまま、つられて窓の外を見る。
遠くに大きく連なる山並みが見えた。
大きい山だ。どれだけ大きいかはわからない。
ものごとは、
近すぎても
遠すぎても
早すぎても
遅すぎても
その実態を掴めないものだ。
顔を戻すとその女性がじっと私を見つめていた。
そして言った。
「中身をこぼさないようにお気をつけ下さい」


「私たちは・・・ここにいる」
「どこに行く必要もないのだ」
サラディンの透き通った美しいガウンが揺れた。
「なぜなら」
言いかけたその時。
遥か東からの風がドウッと吹いた。
リチャードの側兵が動いた。
風のように視界からサラディンが消えた。
リチャードは手すりに駆け寄り下を見下ろした。
長い螺旋回廊の下からサラディンがあの目で見上げていた。

窓からの光りとザワザワとした気配に目を覚ました。
車両の人々がめいめいに降りる支度をしていた。
列車が大阪駅に着こうとしていた。
あわててカバンとコートを掴んで立ち上がった。
コロッとコーヒーの空きコップが落ちた。
拾い上げた。
大阪駅のホームは冬の陽だまりに溢れていた。
携帯を取り出して先方に電話をかけた。
「今着きました。あと30分くらいで・・」

祝福の光りに照らされた、
ボロボロの帰還行軍。
野の花の咲く道すがら、
リチャードは聞き逃した彼の最後の言葉について考えた。

分かりようもなかった。

振り返り
振り返り
遥かな
山々を望み、


彼はなぜか故郷の妻と子供のことを思った。




























2014年10月7日火曜日

ちひろちゃん



朝。
床の間に敷いた布団でおばあちゃんがゼイゼイしてる。
あたちはいつものようにお薬を運んだ。
外は雨が降っている。
秋の雨が降っている。

「ちひろちゃん、おはよう」
「おばあちゃんおはよ」

おばあちゃんが体を起こそうとした。
首しか動かなかった。
あたちはコップでお薬をのませると、

「ゆっくり寝ててくだちゃいな」
と言った。

おばあちゃんは一度閉じかけた目を薄く開けて、
あたちを優しい目でみている。

「ちひろちゃんは優しい子だねぇ」
おばあちゃんのかさかさした声。
おばあちゃんがあたちの手をにぎった。

昼。
お薬の仕分けが終わったので、
あたちはまた床の間に行った。

おばあちゃんがお歌を歌っていた。
聞いた覚えのない歌だ。
でも、とても懐かしい気持ちになった。

「おばあちゃん」
おばあちゃんは寝ているようだった。
寝ながらお歌を歌っているんだ。
あたちはかけ布団をかけ直してあげた。
そこに、タカシちゃんが入ってきた。

「おい、ちひろ、昼ごはん作ってくれよ」
大きな声でそう言ってバタバタと床の間を出て行った。

「おばあちゃん、ちょっと行ってくるね」
あたちはそう言って台所に戻った。

夜。
雨はまだ降っていた。
小さくて細かい雨は家の中をシンとさせる。

「ちひろちゃんを見ていると、おばあちゃん元気が出てくるわ」
その夜のおばあちゃんはたくさんのお話をしてくれた。

小さな頃に見た夕焼けの美しかったこと。
好きになった男の子にいじわるされて悲しかった事。
鉄棒がクラスで一番うまかったこと。
一生懸命勉強して東京に出てきたこと。
お父さんが生まれて、本当に本当に嬉しかった事。

「記憶は優しいわ、どんなに辛かった事も楽しかった事も優しくなるの」
おばあちゃんが微笑んだ。
「おばあちゃん、もう寝てね」
あたちは少し心配になって言った。
「そうね、ちひろちゃんももう寝ないとね」
「おばあちゃん、あしたもお粥でいいかちら?」
「そうねえ、マーガレットが一番好きよ」
おばあちゃんが変な答えを言った。

深夜。
おばあちゃんがどたばたしている。
苦しそうにさっきのお歌を大きな声で歌っている。
あたちは台所に駆け戻って、お薬を持ってきた。
慌てて出てきたおかあさんに後ろからドンってされて転がってしまった。
「・・・・さーん! ・・・・さーん!」
大声で誰かを呼んでいた。
あたちの後ろでお父さんが言った。
「初恋の男の人の名前だよ」
お父さんは泣いていた。
お母さんも泣いていた。
やがて、救急車が到着した。
あたちは粉薬の包みをボウッと持って、
そこに立ち尽くしていた。

翌朝。
すっかり晴れた水曜日の朝。
おばあちゃんが戻ってきた。
冷たくて、固くなっていた。
あたちは何度も薬を持って、台所と床の間を行ったり来たりした。
「もういいのよ」
お母さんが言った。
「もういいの」
お父さんが言った。
「タカシ、ちひろを充電してくれ」
あたちはタカシちゃんに腕を引っ張られた。
充電したら、記憶がなくなってしまう。
そう思ったら、体が震えてきた。

「記憶は優しいわ、どんなに辛かった事も楽しかった事も優しくなるの」
今あたちがおばあちゃんの歌を歌わないと。

「お父さん・・この歌」
タカシちゃんがあたちの手を離して立ちつくした。
「おばあちゃんの歌だ・・」
お父さんがあたちに顔を寄せた。
「ぬれてる・・ちひろが泣いてる」
「まさか・・」
後ろで見ていたお母さんが、
「今日は充電やめて、おばあちゃんのそばにいさせてあげよう」
と言ってくれた。

あたちの名前はXperia-20HGI。
日本の携帯電話会社の介護用ロボット。
通称「ちひろ」

静かな午後。
あたちは、
床の間の陽だまりで
あたちのバッテリーが切れる音を、
かすかに聞いた。

おばあちゃんの優しい顔がジジッと揺れて、
暗闇になった。




























2014年8月5日火曜日

真夏の50歩



遠い昔。

ある真夏の午後。
なんの拍子だったかな。
鎌倉長谷から稲村ケ崎へ歩いたことがあった。

高校生の足にはあっという間の距離だ。
隣の女の子はずっと鼻歌を歌っている。

彼女「もうすぐ、海に出るから」
僕「さっきからずっとそう言ってんじゃん」
彼女「もうすぐ、もうすぐ」

その子が江の電のレールの上を歩き始める。

僕「危ないって」
彼女「だいじょぶ、だいじょぶ」

歩きながら、僕は自分の足をずっと見ていた。
砂と土にまみれたボロボロのナイキ。

彼女「ねぇ、ねぇったら!」

足下の視線を、先行く彼女に戻した。
逆光のシルエット。
レールの向こうを指差す細い腕。
その向こうに青い青い海が見えた。

僕「おお」
彼女「ね?」

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青山、西麻布、六本木、広尾。
自転車に乗って、あちこちを走り回る。
カタログの撮影場所の下調べだ。

色気のある場所というのはなかなか存在しない。
青山墓地、六本木トンネル・・。
いやいや、これじゃ心霊スポット巡りだ。

自販機でスポーツドリンクを買った。
有栖川のベンチで一休み。
あんまりいい場所ないな。

足下、ブーツの先っぽを見つめた。
砂も土もついていなかった。
当たり前だ。

ここは東京なんだから。

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僕「僕らが初めて作るカタログなんです」

銀行マン「はぁ」

僕「で、テーマなんですけど」

銀行マン「テーマ?テーマなんてあるんすね?」

僕「ファウストで行きます」

銀行マン「・・・・は?」

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悪魔「人間なんてくだらん」
神様「そうでもないぞ」
悪魔「じゃあ賭けをするかい?」
神様「賭け?」
悪魔「あのファウストという人間で」

ファウストがある言葉を言ったら
堕落とみなし、悪魔の勝ち。
言わなければ神様の勝ち。

神様「いいとも」

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彼女をふと見る。
目に涙がいっぱい溜まっていた。

僕が気づいたことに気づいて、
彼女が照れ笑いをする。

その途端、ボロボロと涙がこぼれた。

「何で泣いてんの?」

聞くと彼女はヘヘッと笑った。

「海まであと何歩?」

目測した。
「50歩くらい・・かな」

風が吹いた。

「そしたら終わっちゃうなって思って」

海からの熱い風が彼女の前髪を揺らした。

「また来ればいいじゃん」
そう言うと、
彼女はひどく寂しい顔をした。

「そうじゃなくて今が・・」
「?」
「止まればいいのに」

「毎年来ようよ」
僕はそんなことしか言えなかった。

(たぶん困っている僕を気づかって)
彼女は急に笑顔を取り戻した。
「そう言う意味じゃないし、しかも毎年って、ここ地元だし、いつでも来れるし」

そう言うと、いきなり走り出した。
しょうがないから追いかけた。
あっという間に、

50歩の距離がゼロになった。

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「家具のカタログのテーマがファウスト?」
その銀行マンはずっとブツブツ言っていた。
「なぜだ?」

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休憩終了。
さあ。
自転車に乗って、次の撮影ポイントへ。

頭上で木立の緑がざわざわ音を立てている。

六本木ヒルズ。
銀色の塔が光をギラギラと反射させている。

ねぇ。
僕はこんなところで生きているよ。
ペダルを踏んだ。

また風が吹いた。

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[ファウストのラストシーン]

「その瞬間が来た時、私はその時そのものに対して
こう叫ぶであろう。

「止まれ!! お前(時)は本当に美しい」

To that moment [that is, when he sees free men on free soil]
i might say.

「STAY!!  thou art so beautiful.」

私の地上の生活の痕跡は、
幾代「過ぎ去って」も滅びないだろう。
そういう無上の幸福を想像して、
今、私はこの最高の刹那を味わうのだ。

(ファウストうしろざまに倒れる。
死霊たち、彼を抱きとめ、
その身体を地面に横たえる)

**********************************

それを見たメフィスト(悪魔)は言った。

「ついにその言葉を言ったな。
神よ私の勝ちだ。

しかし、過ぎ去っただと?
まったく間抜けた言葉だ。

「過ぎ去った」と
「何もない」は
全く同じではないか。

それなのにあたかもそこに何かがあるかのように、
おまえらはいつも堂々巡りをしているのだ。」

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・・・違うよね。

「過ぎ去った」と
「何もなかった」は同じではない。

断じて同じではいけない。

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そう。
確かに、あの時の50歩のように、
過ぎ去った「時」は二度と戻らない。

そんなのはよく分かってる。

でも僕らもファウストのように、
最高の「痕跡」を、
美しい「刹那」を、
しっかりと刻みつけたいんだ。

「過ぎ去った」時間は「無」ではない。
その証明として、
このカタログを「最高の刹那」にしたいのさ。

だからテーマを「ファウスト」にしたんだよ。












2014年6月6日金曜日

C G Am F G

去年はショップの拡大ばっかりしていたので、最近はもっぱら自社オリジナル商品の開発をしている野田でございます。テーブル、ソファ、チェア、ベッド・・現在進行中の新作は15点…。わーお!!


古今東西どれだけの人がどれだけ無数の家具をデザインしてきたんだろう。つい先日も、描き上げたソファのラフデザインを冷静に見たら、「うわ・・マレンコじゃん。だめだパクリって言われちゃう・・・」ってガックリしたりした。理念&テーマ、マーケット&価格帯、そして工房のスキル範囲。その他もろもろの要素を大きな壷に入れてグーツグーツ煮込んだらこんなデザインになりましたっていうのが僕のデザインの基本です。だから、先人たちの着想から外れることの方が稀であることは分かっているんですけど。


とか、そんなことを思いながら、自宅でぼんやりアコギを鳴らしていて、ハッと思った「C G Am F Gでいいんじゃないだろうか?」ギターを知らない人のために説明しておくと、このアルファベットはギターコードと言って、曲を構成する和音です。この組み合わせの羅列で曲ができるんですね。ピアノのドミソとかドファラみたいなもんです。


C G Am F Gの構成は鉄板の美メロ・コードで、名だたる名曲が基本この構成です。いわゆるカノンコードと言って、ビートルズのレットイットビー、ツェッペリンの天国への階段、オアシスのドントルック、日本では、スピッツのチェリーとかイエモンのJAMとかジュディマリの・・というように枚挙にいとまがありません。つまり、どれだけ人類が進化しようが、人が生物レベルで美しいと感じてしまうものは変わらないんですよね。


家具をデザインする時、そのコードが本当に必要なら、無駄に避けて変な物を作ってしまわず、大きな普遍の流れに身を任せて開き直ってしまってもいいんじゃないかな・・。そう思った雨の朝でした。

2014年5月10日土曜日

ハウスカちゃんと一枚板テーブル



Tokyoという「メガシティ」を木と金属の家具や空間で表現したAREA。
「海辺のリゾート」を白、金、素材色で表現したPOLIS。

それに続く三番目のブランドは考えるまでもなく「森」がテーマだろうと思っていました。

北欧・・フィンランドの森に住むクラフターが自治自営するヴィレッジ。そこに住む小さな女の子を主人公にしたショップを展開できないかなと思いついた時、世界観が一気に広がりました。変な妖精がいたり、家具職人の青年がいたり、ガラス職人がいたり、獣を穫っては革を鞣すレザー職人がいたりします。もちろんみんな底抜けに優しい。朝夕には霧がかかる幻想的な場所で、彼らは自然と会話しながら、いきいきとモノを創っている。そんなストーリーや登場人物に合わせて商品を開発していく。そんなブランドにしたいと思いました。




主人公のハウスカちゃんは6才(?)くらいの女の子です。内気ですぐに泣くけど、好奇心旺盛。笑うと周りの人を幸せにする特技(?)を持っています。

彼女は村で一番大きなオークの木の下に捨てられていました。チューリップ帽に包まれて泣いている所を、とあるおばあさんに拾われます。そして大事に優しく育てられる。村の全員が彼女の母親だし父親だし兄弟姉妹です。そして今日も幸せいっぱいの毎日を過ごしています。

ちなみに彼女のトレードマークの帽子は、その日彼女を包んでいた(きっとお母さんの)帽子です。時々、帽子を手でおさえて、ボウっと空を見上げて涙を流すこともありますが、そんな時、村のみんなはあわてて顔を見合わせると、「こんなの作ったよ」とか言って彼女の気をそらします。そして笑顔が戻るとホッと胸を撫で下ろす・・そんな話です。



ところで、僕らは一枚板というジャンルを創業から10年間封印してきました。無垢材家具、特に一枚板テーブルや二枚板テーブルは前職(独立前)でさんざん販売してきた主力商品だったのに・・です。

答えは一つ。耳付き一枚板の「日本民芸感」がどうしても好みではなかったからです。民芸=田舎というステレオタイプの印象が嫌だったのかな。もちろん、民芸や田舎が悪いとは思っているわけではありません。単なる価値観の問題ですね(いずれ、もっと僕らに実力がついたら、日本古来の民芸デザインブランドに挑戦したいと思っています)。

ともあれ、ハウスカちゃんの住む森にAREA(モチーフ=ミラノ)やPOLIS(モチーフ=紀元前地中海)のデザインテイストが似合うわけもない。考えたあげく、北欧の空間をたくさん勉強しました。中世イタリア(主にバチカン)や中世イギリスのテーブルデザインももう一回読み解きました。注目したのは、中世北方ヨーロッパの修道院に見られる大テーブルです耳付き一枚板が多いんですよね。脚はゴツい鉄製が頻繁に見られました。そうか。一枚板に鉄脚。これなら行けるかもしれない。そう思いました。お店に入った時、優しくて暖かいけど、ほんの少し北欧ゴシック感のある一枚板ショップ。そんなブランド感を伸ばして行きたいと思ったのです。


かくしてHAUSKAはグランドオープンから半年が経とうとしています。ファンのお客さんもボチボチ増えてきました。ありがたいことです。ショップの空間は・・・まだまだですね。もっとお金をかけて作りたいんだけど、なかなか・・。HPも手作りなのでこれからだけど。でもあせらずに行こうと思っています。HAUSKAはCROWNを代表する三つ目のブランドです。ハウスカちゃんとともにゆっくり大事に育てて行きたいと思っています。

お店は渋谷と青山の間にあります。キラー通り沿いで、最寄り駅は外苑前です。

お近くにお越しの際は、ぜひ遊びにきてくださいね。




HP
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