2015年8月25日火曜日

アーツ・アンド・クラフツの教え



19世紀のイギリス、ヴィクトリア朝時代。

そのイギリス帝国の絶頂期にウィリアム・モリスという男がいた。彼の肩書きは詩人、思想家、インテリアデザイナーであった。

言わずと知れた「アーツ・アンド・クラフツ運動」の主導者である。

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「確かにの、産業革命は人に便利を与えた。だがの・・ジェーン(妻)、こいつはどうだ?」

モリスが手近の椅子を蹴っ飛ばす。
その粗悪な大量生産品のウインザーチェアがジェーンの前でバラッと壊れた。

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「気づけば儂らの周りは大量生産の粗悪品で溢れとるの。作るは簡単、売るも簡単。大衆がこれに群がるのは分かる。だがの、儂は見ておれんの。我がイギリス帝国の民衆が粗悪に心が染まって行くのを見ているのが辛いのだ。今こそ我々はモノ作りの歴史の針を中世にまで戻さねばならんの。あの時代は生活に芸術が寄り添っていた。なあに、指針を戻しても、それは退化とは違う。中世の美を現代の技術で生み直すのだ。それは後に世界中に大きな進化を生むであろう。」

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果たして。
モリスの「Arts & Crafts」という民芸運動は世界中に広がって行く。その思想はアール・ヌーヴォーを産み、アール・デコの呼び水となり、世界のインテリアを一変させて行く。

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世紀は代わる。
20世紀、イギリスから遥か遠い極東の島国で、民藝運動家、柳宗悦(やなぎ むねよし)の長男、柳宗理(やなぎ そうり)が生まれる。彼は日用品の中に「用の美」を紡ぎ、日本版アーツ&クラフツを継承して行く。

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モリスは言った。
「生活には美が寄り添わなければならんのだ。高価を怖がってはいかんのだ。そう儂は確信しているのだ !!」

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モリスの製品は結局高価すぎて、好んで使ったのは富裕層だけだった、という批判もある。

しかし、僕は思う。

当時のイギリスと現在の日本はとても似通っている。産業革命で各国をリードしていたイギリスが近隣諸国のフランス、ドイツに猛追随されていたあの時代は、その単語を明治維新、韓国、中国に変えれば、現在の日本を取り巻く状況として違和感無く理解できる。

このまま安価な粗悪品を追求してライバル国と量の競争をして行くのか?

僕らの回答は「否」である。
僕らもまた確信しているのだ。

「生活には、人の心には、上質が必要なのだ。そのキーワードは、今もなお変わらず、アートとクラフトなのである」と。