2015年4月5日日曜日

接客の授業をちょっとだけ


最近の僕の仕事は新人教育です。
今日もこんな感じでがんばりましたよ。


僕「木の素材は覚えてきましたか?」
新入社員「はい」
僕「ブラックウォールナットは何目、何科、何属」
新入社員「・・・クルミ科」
僕「ホント?あってる?」
新入社員「は、はい・・(自信なさげ)」

あってますね。クルミ目、クルミ科、クルミ属。

僕「日本の主だったクルミ材の名称は?」
新入社員「鬼胡桃、沢胡桃、野胡桃」

僕「はい。3日後に筆記テストしますので復習しておいてください。2時間目は接客レッスンその2を始めます。テーマは[知識の最適化]です。」

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僕ら販売店は毎日接客をします。

僕は自社でもコンサル先でも、いろんな販売員を見てきましたが、本当に販売の上手な人はほんの一握り。

先天的に売れる人。
それは生まれつきのものだろう。

でも、それで片付けてしまったら
一握り以外の人がかわいそうだ。
販売店の仕事は販売だけではない。
でも販売店だからなあ。
できればみんなに販売のスペシャリストになって欲しい。

いつからかそう思うようになった。
だからいろんな人の販売を観察した。
そして、売れない人に4つの共通点を見つけた。

その内の1つが知識の最適化だ。

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例えばお客様に「このイスは何の木ですか?」と聞かれたとします。「ブラックウォールナットです」と答えますね。これが会話でいうところの単語です。走るという動詞は英語でいうと?」「Runです」と感じは同じ。知識は暗記すれば誰でも習得できます。

例えばお客様に「このイスは何の木ですか?」と同じことを聞かれて、「ブラックゥオールナットです。北米のアパラチア山脈特に五大湖周辺に分布しています。世界三大銘木に数えられていて、色合い、木裡の美しさはもちろん、素材としての安定性、つまり割れや反りにもなかなかに優秀な木です・・云々」これは会話でいうところの文法に近いものです。有効な配置に関して一定のルールがあるものの、覚えて慣れてくると、これも誰でもマスターできます。

さあ次が問題です。

覚えた単語(知識)と文法(プロット)をしっかり話しても
実は売れない人と売れる人が分かれます。

なぜでしょう?

答え。
売れる人は、お客様が真に必要としている単語と文法を取捨選択していて、売れない人はお客様を見ていないか、それらの取捨選択を間違っているのです。

お客様が欲しがっている情報というのは(多少の傾向はあるでしょうが)お客様の数だけ違います。しかも、やっかいなことに、その真に必要としている情報を、当のお客様すら気づいていないこともあるのですね。

以下は接客シュミレーションの授業で実際に会った話。

お客様「キッチンのカウンターが白木なの。大工さんが秘蔵の材料を使ってくれて、ヒッコリーって言ってたかな。だからテーブルも白木にしようと思っていて」


「そうですね。白木ならオークでしょう。白木の女王と呼ばれているアッシュ(タモ)もいいですね。すうっと通った木目が云々・・」


「そうですね。しかしちょっと待って下さい。ヒッコリーはクルミ科ですね。木目の表情はウォールナットと似ています。色で揃えるのも大事ですが、部屋のコーディネートを考えたら木目の統一も結構大事ですよ」

当時の新人2人は同じ知識を持っていました。しかしここでは大きな違いが出てしまっています。一人はオーク、アッシュの知識の引き出しを開け、一人は木目の統一の引き出しを開けたわけです。もっと会話を掘り下げないとどっちのスタッフから購入するか分かりませんが、白木の統一と木目の統一2つの選択肢を与えた後者のスタッフの方がちょっと分がありそうです。

もっとたくさん例を出せば分かり易いんでしょうけど、長くなるので、ここでは割愛します。これについての僕のイメージを一応補足しておきます。

ちょっと記憶が拙いですが、「千と千尋の神隠し」の中で蜘蛛みたいなおじいさんが大きな薬棚からモノを取って千に手渡します。この大きい薬棚の沢山の引き出しの量を知識の量だとします。蜘蛛ジイ(名前忘れました)はそこから千に最適な薬(?)を取り出して渡します。

この行為が知識の最適化ですね。

あったりまえのことをながーくズラズラ書いちゃってーー。って思う人はきっと売れる人なのでしょう。しかしなかなかどうして、これを教えた途端に売れるようになる人は多いんですよ。なるほどーって思った人は明日の接客でぜひお試しあれ。

あ。これを読んでいる人は家具を探している人も多いんだった。

お客様のあなたは・・そうだな。

知識の最適化ができない人から高価な家具を買っちゃだめです。スタッフは選びましょうね。

というわけで、今回は日々接客にいそしんでいる同業のお仲間のみなさん宛に書いてみました。

お粗末様でした。

2015年4月4日土曜日

7社52名



桜の季節。
新入社員研修一日目。

着慣れないスーツを着た新人たちが緊張して僕を見ている。2015年、当社CROWNに入った人材だ。僕は彼らの顔を昔の自分に重ねている。

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僕の職業はインテリアショップだ。役職は代表取締役。同時にデザイナーでもある。「野田さんはどこの2代目さんですか?」と、よくいろんな人に聞かれるが、生まれついてその役職を持っていた訳ではない。この業界では割と珍しいサラリーマン出身の独立組だ。新卒と同時に総合建材メーカーに入社した。大学が長かったため、25歳でスタートした社会人生活だった。

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「右の方から自己紹介をどうぞ」
新入社員のたどたどしい言葉。緊張のあまり一人がどもってしまう。周りの人間が少し口元を緩ませるが、社長である僕は表情を変えない。

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「野田よう、俺たちは数字を作る。営業だからな。良く出来た月もダメだった月も翌月になりゃ水に流れちまう。毎月毎月毎年毎年同じことを繰り返す。なぜだと思う?」

かつて僕が新人だったころに出会った上司の言葉を思い出す。

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26歳の春。新横浜。早朝の営業所。
外は春の嵐。
強風とそれに混じる大粒の雨が、雑然と散らかった事務所の窓を激しく叩いている。

僕はフェイクレザーの安っぽいソファに腰掛けて小さくなっていた。やらかしてしまった。昨日の失態を思い出して頭を抱えた。出入り禁止になったその材木屋の社長の顔。80歳を越えているだろうか。爺様の赤紫に腫れ上がった怒りに満ちた顔。「ガキがッッ、テメーのおかげで大損だわっ出入り禁止だっっ」見積もりのミスだった。竣工寸前の12棟現場の幅木が6棟分も足りなかった。単純に掛け算のミスだ。「明日6時、野田ちゃん所長に呼び出しだってよ、殺されんぞ?」駒沢大学出身で同期の岩清水がニヤニヤして言った。

横浜営業所の所長がドアを蹴り込んで入ってきた。まず一声。「野田ァッ、何座ってんじゃおんどりゃぁ」直立。思わず頭をかばった。火のついた煙草が飛んできた。続いてバーバリーのコートが投げつけられる。「そんでもってお前はこっちじゃっ」襟首を掴まれてソファと反対側の床に文字通り投げ飛ばされた。

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フローリングからキッチンまで、およそ全ての家の部材を作るメーカーの営業マン。上場企業と言っても、営業相手は地元中小建築業者、問屋、販売店、大工、土建屋などだ。これが何を意味するかわかるだろうか。この世のすべての仕事の中でも、ひときわ気の荒い種族を相手にするということだ。当然、相手をするこちら側も同種でなければ勤まらない。所長などは最たるもので、地元では伝説の人として数えられていた。

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ショッポ(ショートホープ)に火をつけながら、ビニールソファにドカッと座った。東京本社から来た名うての荒事師が、起立する僕を足の下から睨め上げている。リーガルのウイングチップを半分脱いで、足もとでブラブラさせている。次に飛んでくるのはこのリーガルなのだろう。頭から汗がドウッと吹き出した。コナカのワゴンセールで買ったシャツの背中はすでにビッショリだ。しばらくの無言のあと、所長がガラガラした声で言った「迷惑をかけた人間を全部言ってみろ」どう答えていいのか分からずにもじもじしている僕に「もじもじしてんじゃねえっ。こっちは寝不足で疲れてんだよっ」火のような言葉が浴びせられた。すごい熱気に鼻水が出た。鼻水をすすった。「鼻をすするんじゃねぇっ」怒号がかぶさった。「えっと」「えっとじゃねぇっ」「あ・・」「あ、じゃねぇっ」一言一言が耳をつんざく太い大声だ。僕の脳は萎縮してもう何も考えられなくなっていた。意識もボンヤリしてきた。何を聞かれてるんだっけ?「迷惑かけた人間だっ」その声に我に帰った。「所長と・・」言った瞬間リーガルが飛んできた。「俺じゃねぇっっ」

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所長が今回の新築物件に関わる人間を列挙している。施主一人一人の名前から販売店の社長、番頭から新入社員まで。続いて問屋の営業部長から果ては商社の担当。驚いたのは一人一人の相関図・・それこそ家族構成からそれにまつわる人の心の機微、それぞれの会社の立ち位置と夢、そして財務状況まで完璧に把握していることだった。「以上7社52名」言い終えて所長が立ち上がった。「今から全員に頭下げてこい、いいか電話なんて使うんじゃねーぞ」そしてドア口で振り返ると最後に「お前はその仕事に関わる全ての人たちを不幸せにした。その責任を取って来い。自分を捨てて来い」と言って事務所を出て行った。ふいに肩を叩かれて振り返ると、課長がいつの間にか後ろに立っていて、僕に一枚のリストを手渡した。7社52名の住所リストだった。

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嵐の中ビニール傘を何本もダメにしながら、神奈川県内をあっちこっちかけずり回った。何度も何度も頭を下げながら、行くほうぼうで無惨に叱られた。まあまあ、次からは・・なんて言ってくれる人は誰一人いなかった。夕方になった。ぐったりとして、そして最後の材木屋。出入り禁止と叫ばれた昨日の記憶がよみがえる。何度かうろうろした末、僕は意を決して門をくぐった。

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爺様社長が庭に立っていた。「お前は出入り禁止じゃ、母屋には入るな」「大変申し訳ありませんでした」頭を下げる。「言葉なんぞどうでもいい」爺様社長がついて来いといって裏口の作業場へ歩き出した。無言で隅の置き場を顎で指した。おがくずだらけのブルーシートをめくると、例の幅木が積まれていた。12棟分キッチリ揃っていた。「え?なんで?」頭が混乱した。実は発注が間違ってなかったとか・・。いやそんなはずはない。

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「お宅の所長はな、昔ウチの担当だった。それが昨日の夜中久しぶりに飛び込んできたと思ったら、おっちゃん軽トラ貸せってわめいて、清水の工場までこいつを取りに行ってくれたんじゃ。儂もついて行った。道中いろいろ話をしたが、奴ぁ言ってた。わけぇもんの考えてることはわからん。わからん限り合わせることもできん。だったら俺のやり方を押し付けるだけだってな。お前さんはすぐ手ぇ出るじゃろって言って茶化したが、最近はモノ投げるくらいにしてるって笑ってたな」僕はうつむいた。昭和のロジックなんてついて行けねーよと頭では思ったが、この爺様と所長が深夜の東名を軽トラで走らせている様子に、なぜか心の深い所がざわついた。「儂ゃ若い頃に戻ったようで楽しかったわ。あいつとはよく軽トラに乗って営業したからの。まぁ、お前の失態とは別の話じゃがな」

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僕は口を開いた。新入社員たちはそんな僕を凝視している。

「なぜ仕事をするのか。まずはそれをはっきりさせておきたい」

僕はあの時の所長のやり方を賛美はしない。暴力教育の美化なんて死んでもするものか。だいたいやってることはヤクザまがいのマッチポンプだし、やることなすこと不器用で非合理すぎる。昭和一桁代の教育なんて時代錯誤で間違いだらけだ。

しかし・・。

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数年後、所長が本社に再転勤になった送別会。正直僕はホッとしていた。あんな人権無視の圧迫所長といっしょにいるのはこれ以上耐えられなかった。集中砲火に堪え兼ねて、同期の岩清水はとうの昔に転職していた。所長の新部署は本社の窓際だと聞いた。いい気味だ。さんざん酔いも回った所で所長に「野田ぁこっちゃ来い」と呼ばれた。「お前、あんときの7社52名を覚えてるか?」「忘れられませんよ、あれだけは」「よっしゃそれならお前は一生大丈夫だ。」みんなが騒いで飲んでいる和室の片隅。少し間を置いて所長が口を開いた。僕はあぐらから正座に座り直した。「野田よう、俺たちは数字を作る。営業だからな。良く出来た月もダメだった月も翌月になりゃ水に流れちまう。毎月毎月毎年毎年同じことを繰り返す。なぜだと思う?」

初老の所長と爺様が一人の新人のために笑いながら軽トラを走らせている景色。

「ウチの若いもんを甘やかさないでくれ、どうか叱ってやってくれ」と朝早くから電話口で頭を下げまくっている光景。

「あいつは骨がある」ブツブツ言いながら課長と2人で7社52名のリストを作っている姿。

すべて後から課長に聞いた話だ。実際見ていないのに、それらがまざまざと目の奥でフラッシュバックする。くそ、くそ、くそ!!

「自分に関わる全ての人たちを・・・」

答えかけてやめた。口にしたら陳腐になりそうだったからだ。言わされている感じも嫌だった。せめてもの抵抗だ。しかしなぜか代わりに涙がわいてきた。ぬぐってもぬぐってもあとからあとから流れ出してきた。くそっ。このままじゃ美しい送別会の風景あるあるじゃないか。所長はバカにしたように僕を見て笑っていたが、その目の奥には歴戦の勇士の深い慈しみがあった。

「所長・・ありがとうございます。お体に気をつけて下さい」

代わりにそう言った。課長が気を使って最後の一本締めを序列無視で僕にやらせてくれた。

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「なぜ仕事をするのか。まずはそれをはっきりさせておきたい。それは・・・」

そう言ったっきり黙り込んでしまった僕の前で新入社員が次の言葉を待っている。

時代錯誤で間違いだらけだ。しかし・・・あの人の中には時代を超えた太い真理があった。

「俺たちの仕事に関わる自分以外の全ての人たちを幸せにするためだ」

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僕はこの教えを二度と手放すことはないだろう。

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2015年4月3日金曜日

ダブルギミック

AREAはIT、広告、芸能人もさることながら、金融関係のお客様が非常に多い。特に最近、リーマンショックの痛手から完全回復した彼らがお店に戻ってきている。

金融系のお客様はトムフォードの銀縁をキラリと光らせて、家具に対する自分の好みを理路整然とリクエストする。

以下実話。

鷲津(偽名)「前も言ったと思うけど、ここに秘密の書類を入れるための鍵付き引き出しが欲しいんだ。」
AREA(某スタッフ)「…」
鷲津「どうかしたかな?」
AREA「…気持ち悪いですね」
鷲津「気持ち悪い…だと?」
AREA「いえ、こんな所にそれこそ取って付けたように引き出しを付けると全体的にシャープなシルエットが崩れます。それがどうも…」

ちょっとお待ちください。彼は席を離れるとたくさんの資料を持ってきた。ゴシックから現代に至るデザインの歴史本を捲りながら説明を始めている。

AREA「歴史が全てではないですね。でも歴史には宗教から人間工学まで膨大な人知が詰まっています。ですから無視はできません」

デザイナーはお客様の実利を無視してはいけない。相当の実力があったら別だが、独りよがりのデザインなど誰も欲しくない。だいたいそんなニセモノデザイナーは、特に鷲津氏のような何かを極めたプロには通用しない。ここからだな。遠くから観察していた。

AREA「ああ、ここですね。ここに隠し引き出しを作りましょう」

鷲津「隠し引き出し?」

AREA「ここから手を入れてですね、鍵は手探りだけど、こう開けてもらってこう…」

どうやら箱と箱の接合部に構造の隙間を見つけたらしい。一冊の本のページを捲りながら説明をしている。

AREA「このページの異教弾圧の隠し部屋。これと構造は一緒です。構造自体、作るのは難しいけど使い勝手は簡単です」

フーコーの「薔薇の名前」の事案まで飛び出している。鷲津氏は身を乗り出して聞いている。

AREA「というわけで、全体のデザインシルエットを損なうことなく、引き出しをつけることが可能ですね。秘密の書類を秘密の引き出しに入れるわけです。なんというかスキッとしていて気持ちよくないですか?観念的というか感覚的な話ですけど」

こちらからは鷲津氏の表情は見えない。だが、彼の顔は容易に想像できる。仕手仕掛けは金融マンの十八番だ。デスクに仕掛けられたギミックに惹かれないはずがない。いやそれ以前に、その結論を引きずり出してきた人間に感動の念を持つだろう。その証拠に、彼はもう本や手元の図面を見ていない。目の前のデザイナーをジッと見つめている。

勝負ありだ。

バックヤードで契約書を用意している彼に声をかけた。

「見事だったね」
「いや、たまたまです」

たまたま?
そんなわけないだろ。
隠し引き出し案はいつから用意していたか…。

おそらく気持ち悪いと言ったのも仕手の伏線だろう。下手をすれば、今日のプレゼンの前日から用意していたプロットだったのかもしれない。そういえば資料を持ってくるのもやたら早かった。全部用意されていたのか。

ギミックデスクをプレゼンするための接客ギミック。ダブルギミックだ。

「でも次のお客様も詰まってたんだし、普通に引き出し付けて終わらせれば良かったんじゃないの?」

わざと煽ってみた。

「いえ、それはどこでもできるしウチらしくない。ええとつまり、ファンタジーというか夢がない。それに…」

彼はその後を言い淀んだが、わかっている。これで鷲津氏はこれからたくさんの口コミ客を連れて来てくれるだろう。

数年後の後日。鷲津氏と話す機会があった。

鷲津「ダブルギミック?そうだろうね。キレイな流れだったからね。まんまとやられたよ。しかし、それでいいんだ。僕にとったらその提案で競合していた某ブランド店との明確な差別化ができたわけだから。そして、今でも本当に御社の家具を買って良かったと思ってる。まあ、彼は金融業界にいたらものすごい金を作るだろうな。しかし羨ましい」

金融はお金を作る。我々は家具を作る。金融マンにとってリアルに物を作るというのは、一種の憧憬に近いものがあるという。同じ仕手戦をするなら物作りでやりたいよ。彼はそう言って笑った。


2015年4月2日木曜日

CROWNのメインバンク


当社CROWNのメインバンクは東京三菱UFJです。サブバンクで横浜銀行、静岡銀行。抑えで城南信用金庫とお付き合いさせていただいています。

メガ、地銀、地元銀と三種類きちんとお付き合いするのは、戦略的なところが大きいです。金利の問題もありますが、それぞれ得意不得意の個性が違うからですね。経営上、攻めも守りも堅牢にしていくためには、大事なお付き合いだと考えています。

すべてはお客様の満足を創造するために必要なことです。ブランドとは最後は信用力の有無だと思っております。良い商品を揃えていても、いざ(攻める・守る)という時、頑丈な企業力を持っているかどうかが肝心ですよね。

しかし、ここのところ銀行さんのご訪問が多いです。(銀行は)「雨の日に傘を貸さず、晴れた日に貸しにくる」などとよく言いますが、お受けしたり、お断りしたりという判断は結局経営者のセンスなのだろうと思います。上手くお付き合いしたいものですね。




2015年4月1日水曜日

2015年の新作もフルシリーズでいきます。


2015年の新作の用意を始めています。

その数30点(たいへんだ)

2014年のテーマは「SIN(罪)」でした。
共通ビジュアルとしてツノ(角・尖ったもの)にフォーカスし、ゲーテの「ファウスト」を下敷きに一つのコンセプトシリーズを作り上げました。

音楽の世界では、
ビートルズのサージェントやクイーンのオペラ座の夜、デビッドボウイのジギー。邦楽で言えばイエモンのジャガー、フリッパーズgのヘッド博士、バンプのリビングデッドなど数多くあるコンセプトアルバム。あるテーマのプロットに則って多数の作品を作り、一つの世界観(story)としてまとめあげるという手法です。

本来、家具の商品ラインナップでコンセプトアルバムの世界観を実現するのはなかなか難しいのですが、カタログという要素を加えることで、なかなか堅牢なコンセプトワールドが作れたのじゃないかと思っています。

AREAというブランドはいくつかのシリーズを持っています。

Full シリーズ
「A」
AシリーズはAREA作品の根幹となるシリーズで、シンプルの中に眠る遺跡的な要素のイメージです。F.L.ライトの影響を受けています。チェアA-1などはその典型です。当時、南米文化の本をめくりながらまとめた記憶があります。AはAREAの「A」です。その後、AシリーズはAREAの基本ラインとして発展して行きます。

「RIPE」
これは、豊かなボリュームというコンセプトのもとに作られたシリーズです。アウトラインはシンプル、ディテールにボリュームをもたせるというコンセプトです。ちなみにライプとは女性の乳房の豊かさを示す単語です。バックグラウンドにはジャコビアンを据えているため、どことなく英国の匂いがします。

「VANITY」
ヴァニティとは虚栄心やうぬぼれという意味ですが、金属や磨きの技術を多用したキラキラした家具シリーズです。ただひたすら冷たくカッコいいものというコンセプトです。ミラノ公国の秘蔵家具にインスパイアされています。このシリーズは割と伸びが良くて、商品点数が一番多いですね。

「SIN」
罪という名の家具シリーズ。基本をシェーカーに置いていますが、バロックやゴシックまで遡った様式美を現代東京に透過アレンジさせています。尖塔の挑戦的な美しさは神に対する人間の意地のように感じます。僕はあれは恭順には見えないな。

Part シリーズ
「PACIFIC」
湘南地方のびのびとした空気感。
「CIRCUS」
かつて持っていたオリジナル雑貨のシリーズ。いずれ復活させたいです。
「GRASP」
掴むという基本コンセプトを建築美と融合させたデザイン。
「OPERA」
華美と一夜の刹那をコンセプトに開発したシリーズ。請け負ってくれていた工房が事業を縮小したため、今はほとんどレギユラー落ちしてしまっています。

カタログは商品カテゴリー別になっていますので、上記のようなシリーズ別でも見ていただくと嬉しいです。

今年2015はFull シリーズをまとめようと思っています。僕らに取っては4枚目のフルフルバムということになります。僕に取って4枚目といえば「オペラ座の夜」です。この時点ですごく肩に力がかかっていますが。


「エロス&バイオレンス」
この辺りがキーワードになると思いますがどのように落とし込むかは、これから考えて行きます。

また、今年は社外デザイナーの方々ともタッグを組みます。
そのあたりもぜひお楽しみに。

カタログもボリュームUPしますよ。













2015年3月31日火曜日

ある水楢の話


彼らの血が私の幹を洗った時、私は体を大きく捻って慟哭した。私はこれ以上、自分の為にも誰の為にも葉や花をつけることはないだろう。

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昔々北海道の山奥に大きな水楢(ミズナラ)があった。

私はもう自分でも忘れてしまうくらいたった一人でそこにいた。緑の丘にポツンと大きく聳える私の側にはいつも熊や栗鼠や鳥たちが集まってきた。だからまったく寂しくはなかった。晴れの日も嵐の日だって私は毎日が幸せだった。そしてさらに幾星霜の時が流れた。ある日どこからか見知らぬ動物がやってきた。熊のような力もなく栗鼠のように速くもなく鳥のように空を飛べないが非常に賢い動物のようだった。彼らは自分たちのことを人間(アイヌ)と呼んだ。

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アイヌは彼の足下に古潭(コタン)(アイヌ語で集落)を開いた。彼らは私を含めて自然のものすべてに心があると言い、大地と空が所有するものはすべてカムイ(信仰すべき対象)と呼んだ。彼らはよく笑ったり泣いたりした。私はそれを少し羨ましく思った。私は笑ったり泣いたりできないからだ。彼らは道具というものを使った。その便利な様子は目を見張るものがあった。ただ私は彼らの道具のうち火というものがとても気がかりだった。便利であると同時に危険だと感じたからだ。

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いつの間にか私はアイヌが好きになった。彼らは時に喧嘩もしたが、大抵静かで慎ましく暮らしていた。私は特にキサラという女の子が好きだった。彼女は訳あって私の足元で生まれた。耳がちょっと前を向いた可愛らしい女の子だった。足が速くていつも村で一等賞だった。彼女の両親は春が来るたびに私の幹に額をあてて彼女の健康を祈った。そしてもう一人。アシリという男の子。彼は小さい頃から敏捷で歌を歌うのがうまかった。よく私の枝の下で自慢の歌を歌ってくれた。とても恥ずかしがりやで無口だったが、決断力の早さと、ここ一番の度胸はコタンで一番だった。

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だから私は2人の祝言が本当に嬉しかった。村長がアシリを次の長だと紹介した。アイヌたちは沸き上がった。盛大な結婚式だった。キサラはずっとちょっと前に向いた耳を赤くして嬉しそうにうつむいていた。私は生まれて初めて笑った。愉快な気持ちとはこういうことなのだ。私はお礼に大盤振る舞いでいつもより多めに緑の葉を落としてキサラとアシリを祝った。鮭や熊の毛皮や鷹の羽が振る舞われた。誰かが私に隠れてそれを見ていた。アイヌの格好はしていたがアイヌのようには見えなかった。私だけがそれを知っていた。胸騒ぎがした。

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その日は突然にやってきた。
夜、気づくとコタンが悪魔のような炎に包まれていた。
火だ!
火だ!
アイヌが逃げ回っていた。影のようにアイヌではない人間が彼らを追い回していた。長い刃物で一人一人をなぎ倒して行く。誰かが松前藩とかシャモ(和人)とか叫んで彼らに素手で向かって行った。相手にならなかった。すぐに組み伏された。彼らの行動は規律的に統制されていた。かないっこないのは私にでもわかった。家から飛び出た子供たちが泣き叫んでいた。その子たちは一人一人シャモに抱えられ連れ去られて行った。私は戦慄した。誰かが私を指差した。アイヌのみんなが私に向かって逃げてきた。恐慌に陥った人たちの衝動だった。私の足下に来ればカムイに守られると思ったのだろう。何もできはしない。私にそんな力はない。しかし・・私は思った。早く来い。葉を落とすくらいしかできないが、それでも少しでも何かの力になりたいと思った。敵味方入り交じった大きな集団が私に向かって走ってきた。その渦の中心にキサラとアシリを見つけた。アシリは大声でアイヌのみんなに指示を出していた。一カ所に固まるな、バラバラに逃げろと。キサラはアシリに守られるようにして走っていた。キサラ、キサラ、お前は村で一番足が速いはずだ。私の後ろから森が広がる。そこにまぎれれば生き延びることが出来るはずだ。
速く
速く
がんばれ!
もっと速く
もっと速くだ!
がんばれー!!
その時アシリが前のめりに倒れた。流れた刃が腰にあたったようだった。キサラが振り返って悲鳴をあげた。自慢の足を止めた。止めてしまった。私は生まれて初めて泣いた。泣きながら叫んだ。
あー。
だめだだめだー。
止まっちゃだめだー。
キサラは泣きながらアシリを助け起こそうとする。アシリも懸命に立ち上がろうとするが、よろめいて再び崩れ落ちた。江戸から来た支配者たちが彼らに群がった。


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夜が明けた。
私の足下でキサラとアシリが手を握って倒れていた。
アシリはもう二度と歌えない。
キサラの可愛らしい耳が赤く染まることも二度とない。

私の体からすべての葉が落ちていた。
私は意識を閉じた。

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昔、とある人に北海道産ミズナラの一枚板の接客をした時、こう言われたことがある。「よく勉強しているね。でも我々に取ってミズナラというのは悲しい言い伝えがある。いわゆる[葉をつけぬ木]の話だ。できればそれを伝えて欲しい」そこで知ったのがシャクシャインの戦い(1669)とクナシリ・メナシの戦い(1789)だ。その後調べれば調べるほど和人とアイヌの凄惨な話しが出てきた。こんなエピソードを語ったら売れるものも売れなくなる。たぶんその人はアイヌだったのだろう。彼の気持ちも分かる。でも僕は歴史家ではなく一介の家具屋だ。この世には話さなくてもいい話ってのがあるんだ。当時はそう思った。

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木の寿命は長い。人間が窺い知れない景色をたくさん見てきたはずだ。僕らはプロだから木裡の具合から、ああ、ここで寒波が来たなとか、これは明らかに人が背比べをした跡だなとか、さまざまなことを見て取れる。それらをキチンと伝えて、一生もののテーブルとして使ってもらうのが仕事として正しいのだ。「きれいな情報だけではなく、その木のありのままの全てをできるだけ汲み取って、背景の歴史も含めて語って欲しい」あの時彼はそう言った。今はその気持ちが少し分かる。キサラ(かわいい耳)とアシリ(新しい若者)の話は完全に僕の創作だが、もし本当にそんな背景があったとしたら、今の僕なら、それを伝えようと思うだろう。それで売れ残ったっていいじゃないか。そうしたら最後は自分で使うよ。

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あとちょっと主旨的には的外れかもしれませんが、
僕は戦争反対です。

どんなことがあってもです。

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どれだけ長い間眠っていただろう。目を開けると、私はいつもの大地に立っていた。見慣れない服を着た人間が私の下で食事をしていた。誰かが誰かを呼んでいるちょっと甘えた優しい声。

「おかあさーん、見て見て」

耳がちょっと前に向いた小さな女の子がはしゃいで言った。足下に優しい熱を感じる。

「あーホントだ。葉っぱがついてる」

賢そうな瞳を持った男の子がその女の子の横でピョンピョンと跳ねて手を叩いている。

父親が近寄ってきて私を見て驚いた顔をした。

「この木は長い間、葉も花もつけなかったはずだがな」

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私は・・。
手をつないで私を見上げる男の子と女の子をじっと見つめたあと、ふいに空を見上げた。

青く青く高い空がどこまでも続いていた。







2015年3月30日月曜日

春の日のポルシェ


リアルでもネットでもお店と名のつく所が一番苦労するのが集客です。良い商品を置いても誰も来ないのでは商売になりません・・。だから今日も僕らは集客に一生懸命。今回ご紹介するのは僕らがかつて行ってきた千を越える集客施策、その中でもあれは奇策だったなぁと思う一つです。

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とある月曜日
僕「次のチラシどうする?」

2005年。
念願の東京・青山進出を果たした僕ら。ここ青山で、AREA Tokyoは破竹の勢いで大成長をしていた。

生田「最近マンネリ気味ですね」
僕「ちらしの内容はマンネリ安定でいいと思うな。まだブランドイメージ安定してないから。ホームページの方でいろいろ試しているし」
生田「じゃあギミックですかね」
僕「ギミックだなぁ」

広告は大筋の内容もさることながら、詳細部分のギミックの出来が集客量を決める。例えばソファフェアを行うとして、ご購入いただいたら何かプレゼントするとか・・そういうやつだ。

生田「とは言え、ウチはよそと比べてあんまり粗利をとってないから、広告経費はかけられませんが」
僕「プレゼントやSALE以外のギミックか」
生田「ですね」
僕「うーん」
生田「整理しましょう。まず内容はいつも通り。ギミックで集客量を増やす。かと言って、ウチの顧客層をピンポイントで狙いたい」

生田はいつも冷静だ。

僕「ウチの顧客層・・今後狙って行きたいのは」
生田「芸能人とか?」

芸能人でなくとも社会に対して影響力のある人。その顧客層はブランドを作る上で欠かせない存在だ。ご購入頂いた上に、強力な口コミの期待ができる。

僕「芸能人割引とかかな」
生田「・・・・・」
僕「・・・・・あれ?ダメ?」
生田「芸能人はフェラーリに乗っています。そして毎日忙しい」
僕「えー?そこ?」
生田「わかった」
僕「え?なになに?」
生田「24時間営業にしましょう。なーんて」
僕「・・・・」
生田「?」
僕「それだ・・」

深夜対応。聞いたことがある。ヴィトンだったかな。深夜にある女優がマネージャーにお店を開けさせたって話。そうだよ営業時間を伸ばせばいいんだ。人件費との費用対効果の問題をクリアするなら、予約制にすればいい。そして、住んでいる所がお店に近い人が対応する。

僕「お店に一番近いのはだれだ?」
生田「あきらかに社長ですね」
僕「ん?・・そ、そうか」

そんな勢いのまま僕らはチラシ作りに突入した。

僕「でな、さっきの話なんだけど」
生田「はい?」
僕「フェラーリ」
生田「ああ」
僕「駐車場あります の横にイラストでアイコンを入れよう」
生田「了解」

出来上がったラフ。(添付写真)

open everyday

ordinary 11:00~20:00(通常営業時間)
reservation20:00~24:00(完全予約制)

(イラスト)   駐車場3台有り

僕「(イラスト)これ何?」
生田「フェラーリです」
僕「なんか・・俺には平べったい染みにしか見えないのだが?」
生田「フェラーリですって」
僕「そ、そうだけどフォルムが分かりにくいというかだな・・」
生田「・・・・赤くしますか?」
僕「赤い染みになるんじゃないかな」
生田「車変えましょう」

結局、ポルシェにしてチラシが出来上がった。

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さて結果はどうだったか。

まず深夜予約制は時々効果があった。中でも金融界のNさんと医療系ファンドの大物Sさんは今でもお付き合いがある。

Nさん「いや、当時あのチラシをみた時、気合いの入り方がすごいなと思いましたよ。なんだこの家具屋、なにかがあるぞって」(最近の談)

また、ある若手女優さんが利用してくれて、その口ききにより、その後AREA Tokyoを使った「TVロケ撮影」という一つのビジネスポケットを作るに至った。

僕らはいつも一生懸命だった。不格好って笑われてもいいから、一生懸命やろう。エネルギーはもったいぶらずに全部出そうっていつも仕事をしていた。だから奇策も出るよ。でも時が経つと、こういう話がすごく愛おしくなるな。いや、懐かしがってる場合じゃないんだ。なぜなら僕らは今日も一生懸命奇策を出し続けているのだから。

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そうそう、ポルシェの話。

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桜舞うおだやかな春の日曜日。

キュキュッ。
一台の車が店前に停まった。
何気なく外を見た僕と生田が戦慄した。

生田「ポ、ポルシェが」
僕「本当に来た」

続いて2台目。
僕、生田「・・・2台来た」

お店に横付けされた2台のポルシェ。
僕は今でもその光景を覚えている。
生まれて初めて背中がぞわっとした感覚とともに。