2015年6月2日火曜日

渋谷のタヌキと魔法の夜



青山に本店があるインテリアショップ。
念願の会社に就職して3年が経った。

毎日が同じ繰り返しだ。
いまだにチラシ配りだしさ。

仕事が単調すぎて、
今は正直つまらないと思っている。
夢見た仕事と違った。
僕には合ってないんじゃないかな。
インテリア。

ずっと下積み作業なんだもんな。
このモノクロの生活から抜け出したいな。
最近はそんなことを毎日考えている。

渋谷。
さっきまでビックカメラの横の居酒屋で、
大学の友達と飲んでたけど、
抜け出してきた。

体調が悪いのかな。
すごく酔っぱらった。
世界がぐるぐる回っている。
渋谷がぐるぐる回ってる。

みんな社会人になって、
僕よりぜんぜん充実している感じがした。
「いやー俺ビックプロジェクト任されちゃってさ」
「えーすごーい」
端っこの席でそんな友達の自慢話をずっと聞いていた。
なにがビックプロジェクトだよ。
気分が滅入る。
ここんとこ同じ理由でfbからも遠ざかってる。
来なきゃ良かった。
人嫌いになりそうだよ。

こうやって駅前のスクランブルに立つと、
ホントに一人になった気がした。
なんだこれ?
すごく怖いな。
こんなに大勢の人間がいるのに・・・。
なぜだろう?
まあ、あれだ。

大勢の人間がいるからだな。

人がなにやら恐ろしいものに見えてきた。
この人たちって・・・。

どこから来て、
どこにいくんだろ?

人は嫌いだ。
一人になりたいな。

故郷の空を思いながら歩く。
あの川沿いの土手。
今も緑であふれているだろうか。
たった一人でポチッと座っているだけで、ホッとした気持ちになった。


携帯のLINEのアイコン。
表示4件。

「どこ消えてんだよ?」
これは雄二。
押しが強くていやな奴。
いつも僕に絡んでくる。

「明日am9:oo店集合。勉強会」
これは会社のアキラ先輩。
いつも上司にペコペコしてる情けない人。

「いつの間にかいなくなっちゃってどうしたの?」
スタンプ挟んで、
「みんな探してたよ?」
これは理沙ちゃん。
大学のとき2ヶ月だけ付き合った女の子。
一方的にフラれた。
理由はいまだに知らない。
いまだに聞けない。

僕は肝心なことをいつも聞けない。

千鳥足。
提灯がぶらぶら揺れる、
飲んべえ横町を抜けて、
宮下公園の入り口。
自販機でなんか買お。
ポケットの小銭。
引っ張り出そうとしたら、
バラってこぼれた。
拾おうと思ってかがんで、
植え込みの土の匂い嗅いだ途端、

・・・吐いた。

自分のゲロを見て・・気持ちが・・。
なんか、もう、こう一気に・・。
あふれた。

「あー」

ゲロに手を入れて、
土ごと掴んで、
自販機に投げつけた。

俺ってこんなもんだったっけ?
突っ伏した。
もういいや、
もうやめよう。
なにもかも嫌だ。

夏になる前に会社を辞めよう。

「うわー」
いきなり後ろで声がした。
十代くらいの馬鹿っぽい女が、
立っていた。

顔は、まあ・・かわい・・くもない。
たぬきみたいな顔をしてる。
見ようによってはかわいいかもって感じ。

「ゲロ投げてる・・」
その女が言って僕の前でしゃがみ込んだ。
500円玉を拾ってくれた。

でも、
夜の渋谷ではこういう関わり方はまずいんだ。どんなことに巻き込まれるか分からない。

僕は無言で立ち去ろうとした。

「ねーねー、ちょっと」

女がついてくる。

「お兄さんってば」

まずいぞ。なんかのキャッチだ。
あとから怖いお兄さんが出てくるってやつ。
ぜったいそうだ。
逃げなきゃ。

「待ってよ」

立ち止まって振り向いた。

「何ですか?」
と僕。

彼女が笑った。
たぬきが笑った。

「いや、なんか悲しそうにしてるなって思って」

いえ、あなたには関係ないことです。
口の中でモゴモゴ言って立ち去ろうとした。

「悲しい人には優しくしなさいっておばあちゃんに言われたんだよね」

その言葉に足が止まった。
いや、
正確に言うと、
その田舎の訛りに足が止まった。
振り向いた。

「東北?」

彼女がハッと口を閉じた。

「どこ?出身」

彼女が答えた地名。
隣町だった。

「えー?お兄さんも?」

************************

彼女は今日、某アパレルショップをリストラされたと言った。

「ファストは終了だよ。ブーム去ったし円安だし」

一人で飲んで落ち込んでたら、
もっと落ち込んでそうな人がいるなっーって。
で、見てたら、
そいつがいきなりゲロ吐いた。
落ち込んだって、私はゲロ吐かないし、
って思ったら、思わず声をかけちゃった。
と言ってケタケタ笑った。

「お兄さんいくつ?」
「25」
話してるとなんだろう・・。
ジワッと安心感をおぼえる。
「君は?」
「19」
ああ、そっか。
この子・・。
地元の言葉に切り替えてくれてるんだ。
優しい子だな。

「ねえ、いい景色見せてあげる」

彼女が歩き出した。

「すぐそこだから」

宮下公園に上がる階段を上がり始めた。

階段の上でこっちこっちと手招きをする。

小さい体がピョンピョンとはねた。

怖いお兄さんが出てくるって感じでもないな。
ついて行った。

彼女が閉鎖された金網を、
よいしょよいしょって言いながら登って、
びよ〜ん
とジャンプして降りた。

「お、おい」

いいからいいから。

しょうがないからついて行った。
金網を乗り越えた。

明治通りにかかる陸橋。
その上から街を見下ろした。

「私、さっきまでここにいたんだ」
と彼女が言った。

酔いがひどい。
金網乗り越えたからかな。

車のテールランプが渋谷駅の方に流れて行く。

人も流れている。
夜が更けて行く。
細い月が西武の上に引っかかっていた。

「ずっと渋谷を見てたんだ」
「渋谷を?」

うん、そう。
といって彼女は黙った。
欄干に寄りかかって僕も見下ろした。
彼女の言う渋谷を。

みんなどこから来て
どこへいくんだろう。

そう思うと少し目がかすんだ。
泣くっていうのでもなくて、
その一歩手前の感じ。

風景がにじんだ。
赤いテールランプがつながって、
ぼんやりとした線になった。
流れて行く。
車も人も夜も流れて行く。

どっちにしても、
みんなどこからか来て、
どこかへ行くんだろうな。

トントンと肩を叩かれた。
「ねえ、あの角の店」
彼女が指を指した先。
カッシーナの後に入ったアパレルショップ。

「DIESEL?」
「うん」
「が、どうしたの?」
「あれが私の夢」
「ゆめ・・?」
「うん。夢」

そう言うと彼女は僕の顔を下から覗き込んだ。

「ちょっと語っていい?」

うん。
僕は頷いた。

「さっき会ったばっかの人にあれなんだけど」
「いいよ」

僕がもう一度頷くと、
彼女はフンって息を吐いて、
もう一度ディーゼルを指差した。

「私はあの店に立つの。そんで、あそこで、みんなにオシャレを配りたいの。そう思ってあの街から出てきたの。みんなが反対した。でもおばあちゃんだけは応援してくれたの。だからね、私はね、帰れないの。ぜったいぜったい帰れないの。ほんとはね、ファストなんて行きたくなかったの。でもあの店に断られるのが怖くて妥協しちゃった。しかもそこをリストラされてさ。バカみたい。でね、私、さっきここに立ってて、決めたの。明日履歴書持ってあそこに行く。もう私は逃げない。土下座してでも入ってやる。私は渋谷になんか負けない。東京にも負けない。自分にも負けない。ぜったいぜったい負けるもんか」

最後はもう独り言みたいになっていた。
僕はずっとそんな彼女の横顔を見ていた。
目を逸らしかけたけど、
なぜかできなかった。

その時僕は彼女が、
美しいと思ったんだ。
いや、彼女がではなくて、
いや、彼女がなんだけど、

なんて言えばいいんだろう。

これが人だと思った。
これが人の美しさなんだって思ったんだよ。

僕の中にわだかまっていた澱のような感情がキレイに失くなっていた。

魔法のようだった。
魔法の夜だ。

細い月の、
薄い月光が、
ひっそりと僕らに降り注いでいた。

気づいたら僕はポロポロと泣いていた。

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彼女とどうやって別れたんだっけ。
その後のやり取りをよく憶えてないんだ。
ハッキリ言えるのは、
僕は彼女の名前も連絡先も聞けなかったってことだ。

僕はいつもそうだ。
肝心なことをいつも聞けない。

だけど・・。

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もちろん後日譚がある。

************************

真夏。

西武の上に被さる入道雲。
街路樹から沸き立つ蝉の声。
通りから沸き上がる蜃気楼。

お店のちらし配りの帰り。

明治通りの陸橋・・・。
あの陸橋の上から、

「あ・・」

例のディーゼルの店内に、
彼女を見つけた。

八頭身のモデルみたいな女性スタッフの中で、小さな彼女がクルクルと接客して回っていた。

「はは」

僕は笑った口に手を当てた。
土下座して入ったのかな。

ああ、いいぞ。
すごいな。
張り切ってるな。
彼女に接客されているお客さんが笑っている。彼女も笑っている。

ボンヤリ立っている他のスタッフとの間に、
もう完全に温度差があるようだった。
彼女にだけ陽の光があたっているようだった。

あたりまえだ。
あたりまえだよな。
がんばれ。
がんばれ。

私は渋谷になんか負けない。
東京にも負けない。
自分にも負けない。
ぜったいぜったい負けるもんか。

そうだ。
僕もがんばるよ。

手の中のチラシを見つめた。
顔を上げた。
ディーゼルに背を向けて歩き出した。

僕は再び歩き出せたよ。

ありがとう。

************************

ーあとがきー

2015年入社した家具業界の新人のみなさんへ
もう仕事には慣れましたか?
この春、あなたが決めたその場所を、
あなたの最後で唯一の場所にしてください。

応援しています。
がんばれ!!





















2015年5月23日土曜日

マウイ☆パラダイス



表参道のカフェで人と待ち合わせている。

早めに着いた僕はいつものように手帳に家具のデッサンを書きなぐって時間を潰している。こうしていると落ち着く。頭の中では、これから会う人との話の成り行きをシュミレーションしている。その手がふと止まった。

さっきからかすかに鳴っているBGM。
MUSEの新曲がJ.レノンのあの曲に変わったからだ。

数秒過去に戻り、
すぐ我に返る。

「これか?」

じいっと
手元の家具デッサンを見つめた。

ずっと手放さなかった僕の居場所がそこにあった。

「上出来だよ」

*********************

1992年

集合住宅の5F。
深夜2時。

煙草に火をつけた。キースのマネをして、ジャックダニエルを1Pグラスにドボッと注いだ。マイファーストSONYのラジカセにジョンレノンのカセットを放り込んで、ボリュームを小さくすると、世界でたった一人になった気がした。薄い糸のような煙草の煙と、ジョンの歌声が一人の部屋の夜に吸い込まれて行った。

自意識過剰の若者はいつもこういう小っ恥ずかしい真似ごとをする。しかし、許して欲しい。若者はいつでも本気なのだ。真似とカッコつけを繰り返して世界との距離を把捉して、いずれ成長して行く。

スターティングオーバー。
Over & Over & Over &・・・。

テーブルの上にリクルートから送られてきた電話帳みたいな就職資料がうずたかく積まれている。僕はイスに体育座りをしてジッとそれを見つめている。チェックして折ったページ。大塚家具、マルニ、コスガ、アニエスb、ギャガコミュニケーション、大建、ノダ。

25歳で新卒だぜ?
もう何もかも遅すぎる気がしていた。

まあ、でもどうでもいいや。
適当に今は幸せだし。
と、ぼんやりしている。


************************

集合住宅の5F
朝9時。

床に放り出すように置いた安いマットレスの上で目を覚ました。

昨日のジャックダニエルが床にこぼれていた。彼女がそれを雑巾で拭いていた。こんな飲み方してると死んじゃうよ?と言って泣いていた。

そんな彼女が着ているプルオーバー。そのパーカーの胸。僕はそのプリントロゴをぼんやりと眺めている。楽しげなロゴデザイン。

MAUI。

その下に小さくパラダイスと書いてある。

「尾崎豊死んだってさ」

言いながらそのロゴの意味を考えている。

「好きだったの?」

マ・ウ・イ・・・?

「尾崎?いや、別に」

なあマウイってなんだっけ?
地名かな。うん、地名っぽいな。

「決まったの?就職」
「まだ」
「ふうん」
「・・・就職決まったらマウイ行こうぜ?」

彼女のパーカーの胸を指差した。

「マウイってどこ?」
「知らね。けど、たぶん楽しいとこじゃないかな。パラダイスって書いてあるし」

僕の無理にはしゃいだ声が部屋にうつろう。

彼女は目を伏せながら言った。

「うん・・それもいいけど、ちゃんと普通に就職活動してね。なんかいつも投げやりだし、すぐ手放しちゃうし」

家具だよ。

それは決めてる。

っていうか・・・。

「普通ってなんだよ?」

手放すって言っても、どこも僕の居場所じゃないような気がするんだよ。僕は僕のピースがピッタリとハマる場所を探しているんだ。ジグゾーの形がさ、僕は特別なんだよ。

************************

集合住宅の5F
数日後。

部屋に帰ったら友達がすでにたむろっていた。軸の外れた地球儀でリフティングしてる奴。その横で壁にペインティングをしている奴。その助手をしている彼女。俺のジャックダニエルをラッパ飲みしてる奴。ウチの合鍵が出回ってるのか?

この前、茅ヶ崎駅前の桃太郎で飲んだ時、確かに約束はした。でも、キッチンの前板を塗るってだけの話だったはずだ。なんだこれは?・・いつの間にか壁がアートされている。

「豪ちゃんさー、こっちも描いていい?いいよね。あー描いちゃった」

あー描いちゃった♡じゃねーよ。

「貸せよ」

刷毛を朝日ペイントのペンキ缶にドプッと入れた。壁にでっかく書いた。

「祝就職」

「おおー」ぱち・・ぱち・・。
まばらで、ぬるーい拍手。

彼女が嬉しそうに近づいてきた。
顔がペンキだらけだ。
手で拭いてやった。

「決まったの?」
「ああ。決まった」

なんとなく幸せ。
こんな感じがずっと続くんだろうな。
でもどうしてだろう。
彼女の嬉しそうな顔を見ても、
そもそも自分自身もな、
ちっとも嬉しい気持ちにならないんだよ。

「普通に生きて行けばいいんだ。
普通に幸せに」

って世間は言うけど。

でもいつも心に引っかかっている。

僕の居場所はどこだ?
僕の・・。
パラダイスはどこにある?

************************

・・・・・・。

************************

・・・・・・。

************************

そして・・・。

あれから22年が経った。

誰もがそうであるように、僕もまた、凄まじい激流に流された。

途方もない月日を経て、

今、

僕はここにいる。

表参道の小さいカフェでアイスコーヒーを飲みながら、取引先の営業マンを待っている。

あっという間だった。
人の心にズカズカと土足で入ってきて、容赦なく僕の「子供」を粉々に破壊する、そんな上司に恵まれた。
僕はほとんど遊ばず、
夢中で仕事に没頭した。

そんな20代後半と30代と40代前半だった。

*************************

その時の彼女とはあの後すぐに別れた。

夕陽の神楽坂で大きく手を振る彼女のシルエットを今でもハッキリ憶えている。すごく悲しい別れだったように思うけど、もう風化してしまった。時々・・その残り砂をカサッと踏んでしまうことはあるけど。

彼女だけじゃない。
僕は、あれから、いろんなものを手にしては失くし、再び手にしては、
再び・・・
失くしてきた。

************************

マウイがハワイ島の隣の島だと知ったのは、それからだいぶ時間が過ぎたあとだった。

「ハワイに行くなら、マウイでしょ。ホノルルなんて初心者の行くとこで・・・」

「あーマウイなー」

「あ、行ったことある?(ペラペラ)」

「いや・・ない」

一生懸命僕をサーフトリップに誘うそいつの話を遠くに聞きながら、僕はマウイという島の風景を想像してみた。

グレーのパーカー、エンジ色のロゴ、筆記体でMAUI。

集合住宅5Fの窓から入る風の匂い。

そよぐ白いレース、安物のカーテン。

揺れる彼女の笑顔の口もと。

遠くかすかなみんなの笑い声。

しかし、思い出すのはそんな甘くて苦いフラッシュばかりだった。

***********************

ジョンレノンはiPhoneの中にいる。

選曲すればいつでも、

Over & Over & Over & Overと

今も歌ってくれる。

でもあの時のように、

夏の夜に心地よく漂ったり、

秋の高い空に吸い込まれたりは・・、

もうしてくれない。

電子音だからかな。
聞き過ぎたからかな、
受け手が大人になってしまったからかな。

きっとその全部なのだろう。

***********************

そして・・。

手元の家具デッサンを見つめた。

ページの端っこにいつの間にかアイスコーヒーの染みがついている。それを手のひらでゴシゴシとこすった。

あの頃からただ唯一、ずっと手放さなかったモノがここにある。

何度転んでも、

バカにされても、

這いつくばって泥んこになっても、

「これだけは、これだけは」

って右手に握って手放さなかったものだ。

家具・・・。

「これか?」

パラダイス(安息の地)ってのは、
どこだどこだ?って探すものではなくて、自分で作り育てて行くものだったよ。

居場所ってのは、
自分のピースにピッタリの場所を探すその先にあるのではなくて、その場所に自分の形を変えていった先で、初めて見つかる場所だったよ。

ってオチだ。

頬杖をついた。

家具ね・・。

パラダイスというにはちょっと地味な感じがするけどな。

まあ・・いいか。
僕にしては、

「上出来だよ」

***********************

それはそうと・・。
そろそろ行ってみようかな。

マウイ。

遥か遥か遠い彼方の、
マウイ☆パラダイス。






2015年5月16日土曜日

空気を読む人作る人


人が複数人集まったとします。何十人何百人でもいいんですけど、例えば小さく3人。

AさんBさんCさんです。

3人の考えていることはそれぞれ違います。大きく違うでも、微妙に違うでもいいです。その大まかな意識の平均値を出すと、それが空気となります。

「空気を読めよ !!」の空気です。

それは、正確に言うと「場の空気」というもので、暗黙のルールというよりもっと自然発生的な何かです。

その平均意識を読めない言動をしてしまう人が、俗に「空気を読めない奴」や「天然か?君は」といわれる人です。

さて、そこを踏まえて、

先ほどのBさんが何らかの目的の為に、その場の空気を自分の思う方へ誘導したいと思うとします。BさんはAさんCさんの言動を注意深く観察し、空気を読み切った上で、突出した言動をその場に投げ込みます。

先ほど言ったように「空気」とは単なるその場の複数意識の平均値ですから、当然Bさんの値(あたい)も含まれています。つまり、空気を読んだ上で、空気を読まない人(この場合ではBさん)がその場の意識の平均値を変えてしまうということになります。

空気が変わるわけです。

言い換えます。

『空気は変えることが出来るのです』

もう少し詳しく言うと、

空気を変えるためには条件があります。

1. 空気を変える大義名分を持っていること。
2. 精密で我慢強い空気の入れ替え作業ができること。
3. 変えた空気がもたらす何かに責任を取る器量があること。
4. 単なる異物とされても良しとする覚悟があること。

結論を言います。

上級者のビジネスにおいて、空気を変える能力は必須能力です。皆が皆、個と集団を背負って自分や自社の意識を語らなくてはいけませんし、それが必要とされる局面であれば、率先して自分の方向へ空気(集団意識の平均値)を変えねばなりません。

「空気を読むだけの人」は出世できません。どんな状況においても「空気を変えることの出来る人」つまり、「空気を作ることができる人」だけが「空気を読むことしか出来ない人」のリーダーとなり、成功していくのです。

僕はそんなことをいつも意識しています。

とか語りつつ、

まだまだ自爆も多いのですが・・・。

2015年5月15日金曜日

人脈作り(僕の場合)


「人脈作りって、コツとかあるんですか?」

と、昔からよく聞かれます。

そういう場では「うーん別にこれといって・・」

とか言ってごまかしちゃいます。

聞かれて、こうでああでって説明するのもな・・面倒くさいなあ。

と思ってしまうからです。

そんなわけで、今まで適当に流してきた懺悔もこめて、

今日は僕が過去に人脈をどう作ったかについてざっと書いてみます。多少でもどなたかの参考になればいいのですが。

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小学生の時、ある担任の先生に散々睨まれてへこんでいたことがありました。彼の口癖はいつも「それは野田が悪い」で、どんな弁明も聞いてもらえませんでした。

たまりかねて父親に相談をすると、「権力に対抗するには人を集めるしかない」と言われました。「この世の中では、大きな人脈を持ち、なおかつそれを効果的に使う者が一番強い」とも。

東大や成田で闘争を繰り返してきた経験を持つ、左翼系の新聞編集長の言いそうなことだ。

まあ、その時はそんなアドバイス・・・小学生の立場でどうすればいいの?って話だったんだけど。

でも、「この世は人脈」という言葉だけは、その後もいつも頭に残っていたので、独立して会社を興した頃、身分違いでも会ってみたいなあと思うあこがれの社長さんたちには直電アポ取りをして会って回りました。

実名をここに書けないは残念だけど、その時のみなさんは実にそうそうたる人たちばかりで、驚くのは、ほとんどのみなさんが無名の僕に対して、拍子抜けするほどこころよく面会してくれました。

ちなみに、アポ取りの秘策なんてまったく無くて、

「最近独立して、家具の仕事を始めたのですが、後学のために5分だけでもお話を聞かせて下さい」

そう言っただけでした。

その社長さんたちは僕にアドバイスを与えるどころか、最終的には、次の会うべき人も紹介してくれました。一年間で35人にお会いしたのが、今でも手帳に残っています(タイトル名 : 突撃社長面会シリーズ)。

まさに社長さんの輪。
ありがたい話です。

結局、翌年からも次が次を呼んで、
それにどんどんドライブがかかって、
広範囲に広がって、
そして、今に至ります。

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うーん。
本当にボンヤリと書いたな・・。

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最後に、僕の考える人脈三大原則を書いておきます。

(ちなみに、僕にとっては単なる「知り合い」と「人脈」は厳密な違いがあるのですが、詳細を書くといろいろと差し障りがあるのでここでは控えます)

1, 待っても人脈は作れない、追え。
2, 使わない人脈は宝の持ちぐされ。
3, 手入れをしない人脈は無くなる。

2015年5月14日木曜日

敵わない人 - short vir.



仕事で出会う人。

その中で「うわ、敵わないなこの人には」

と思う人がたまにいます。

敵わないことが素直に受けいられる時・・。

それはいいです。

でも、どうしても受け入れられない時ってありますね。

そういう人っている。

辛いですね。

だって敵いたいのに敵わないことが、

自分でよくわかっているから。

自分の小さなプライドがギュウッと苦しくなりますね。

そんな時、

心はいつも逃げ場を探します。

自分をなぐさめてしまいます。

立場が違う。(土俵の違いにして)
生まれが違う。(運命まで出してきたり)
年齢も違う。(年齢差の幻想にすがったり)
僕だって本気になれば、(性格の違いの盾で)
もういっそ・・。(武装したと思ったら)
賞賛側に回ろう。(うわ、逃げた)
僕は僕らしく。(あっ閉じこもった)

心はバランスを取ろうとします。

でも、本当に成功したいならそれではダメだ。

足がプルプルしてもその人の前に立とう。

それができる人は成功してもしなくても、

常に美しい成功者であると思う。

陽のあたる坂道を行く人は、

大抵そうやって自分と闘っています。

さて、今日もやりますか。

とりとめのない話でした。






2015年5月13日水曜日

我南方戦線ヨリ帰還セリ



南の孤島。塹壕の脇。累々と積み上げられた死体の前で、男は友の顔を見つけた。骨まで溶けるような熱射の中、男は膝を折った。天空遥か遠く、ゴオンゴオンと爆音を轟かせてB29が飛んで行く。ああも巨大な飛行機が飛ぶのか。敵国の技術力に悪寒を憶えた。そしてあれが東京に向かっているのだ。かあさん・・どうか無事でいてくれ。少しおっちょこちょいでヤキモチやきの妻の顔を思い出した。そして妻の足に半分かくれて、出征する私を見送る娘の顔。

滝のように流れ出る汗が目にしみた。まばたきをして友の顔に目を戻す。「貴様は禿げるタイプだな、俺はきっと年をとってもふさふさだ」昨日の晩、そんな他愛もない話で笑い合った友がここに死んでいる。馬鹿。禿げるも何も貴様はこんな所で死んでしまったではないか・・。男はよろよろと友の両脇に腕を入れ、渾身の力で死体の山から引きずり出した。顔にかかる前髪をきれいに整えると、あぐらに座らせてやった。

生き残りの何人かが慌ただしく走って行く。その一人に、「貴様、撤退だ。乗り遅れるぞ」と声をかけられた。男は友の前に座り、空を見上げた。高く高く青い青い空が永遠に広がっていた。口を開けてその空をしばらく見つめた後、男は友に顔を戻し、言った。「わしは沢山敵を殺した。味方はもっと沢山殺された。」山の方から蝉の大合唱が聞こえ始めた。「もうごめんだ。わしは生きるぞ。妻と子と幸せに、平凡に、ただ暮らすのだ」その言葉を吐いた途端、男は自分の体にとてつもなく大きな気力が湧くのを憶えた。男はすっくと立ち上がった「そうじゃ。わしは生きる、生きて子供をたくさん作ってやる。死んだお前や同胞や敵国の兵隊の分まで子供をつくるぞ !!」風が吹いた。「さらば !!」男は友に背を向けて駆け出した。

その後、男は内地に戻った。東京はなんにもなかった。桜新町も文字通り何もない焼け野原が広がっていた。ようやく自分の家のあった場所を見つけた。男はそこに座り込み何日も家族の戻りを待ち続けた。

ある日、男が近くの井戸のポンプで水を汲み、痩せて疲れきった体を洗っていると、砂利道の向こうに人影が見えた。蜃気楼の中でゆらゆらと揺れる人影。小さな子供の手を引く女の姿。「あーあーあー!!!」男は声にならない声を出した。「かあさん!!」男は走り出した。女が手に持った荷物をドサリと地に落とした。「とうさーん!!」「フネ !!」抱き合った。「おとうさん・・」子供も飛びついてきた。小さな手で波平のズボンをギュウッと握った。「サザエも無事だったか」三人は砂利道の上でずっと抱き合った。

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少子化にまつわるレポートを書くために、第一次ベビーブームと第二次ベビーブームを調べていたら、「サザエさん」のサザエとカツオ(ワカメ)の年がどうして離れているか、というスレを見つけてしまい、設定では波平が戦争に出ていたからだと知った。

結局、波平のような戦争帰りの人々が第一次ベビーブームを作る(1947~8)。そして必然的にその子供たちが成人し第二次ベビーブーム(1970~75)を作るわけだ。

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波平が南方戦線で何を見たのか。あの平凡で幸せな磯野家はどうしてあんなに平凡で幸せ足り得たのか。そう考えたらどうしてもこんなショートを書きたくなってしまった。

戦争という狂気をくぐり抜けた人間が子づくりに向かう。一見すると短絡的に見えるその行為、しかし、僕は、そこに人間という生物の、底知れないダイナミズムがあるように思う。

生物のダイナミズム?難しく言うことはない。今日も僕らを動かして止まない、この大きなもの。

****************************

それが「愛」だ。










2015年5月12日火曜日

ダリは戦車に乗ってやってくる (後編)


戦車は外苑西通りを進んでいる。僕はまんじりもせず総革張りのシートに座っている。

「ところで、野田さん」

ダリが僕の方を見ずに前を向いたまま言った。

「私は今から行く私の家に2年と住まない予定だ」

低いバリトンが朗々と車内に響く。

「それでもその2年間を最上の家具に囲まれて暮らしたい」
「はい」

はいと僕は答えたが、答えてから嫌な予感がした。僕らの家具の最大上代価格がこの人に見合わなかったらどうしようという不安だ。果たしてダリは言った。

「引っ越したばかりで何も家具がない状態なので、君のデザインで全て作って欲しいのだが、特にリビングのキャビネットにこだわりたい」
「大きさは一般的なものでしょうか?」
「そうだ。腰くらいの高さで、横はそうだな・・2mほどだろうか」

何のことはない。簡単な話だ。僕は頭の中で重厚な4枚扉のリビングボードを想像した。全体イメージはゴシック。4本脚構造で、フリッチ材(KD材)を4枚も合わせれば重厚感が出るだろう。合わせ目は装飾溝で飾る。いや・・ちょっとまてよ・・。

「目安としてお伝えしておくが、私はそのボードを1000万程度で作っていただきたいと思っている」

~~~っ!!
やっぱりだ。
完全に最大上代価格が見合っていない。

ダリがC社で購入を諦めたのは、そのポイントであった。彼は100万200万程度のボードなど必要としていないのだ。僕らはフロントが販売店であるため、誤解されることも多いが、自社でデザインを起こし、設計をし、製作だけ外部工場に委ねるという歴としたメーカーである。もちろん価格を決めるのも僕らなので、そのサイズのキャビネットを作って、勝手に「はい1000万円です」と言って販売もできる。しかしそれはビジネスモラルとして許されることではない。

呆然とする僕をよそに戦車が坂を上がって行く。永遠に続く高塀がその坂に沿って続いている。こんな所にこんなマンションがあったのか・・・。

都内の超高級マンションはまず低層だ。そして、普通の人にはその入り口が分からない。人が溢れる都会の真ん中に、誰も気づかないようにして建っているものなのだ。

戦車を降りた。エレベーターの前に立つ。
頭ではめまぐるしく計算を繰り返している。今手に入る最高の素材。日本最高の匠、最高の工房、最高の彫刻家。もはやモダンやシンプルで追いつく予算ではない。デザインベースは?・・・ゴシック?バロック?いやヴィクトリアか。ブツブツ言っている僕をダリが横目で見ている。

エレベーターを降りた。玄関は一つしかない。一戸=ワンフロアなのだ。玄関ドアを開けて中に入った。軽く二部屋分はある玄関だった。ダリが言った「キャビネットは各部屋に一台づつ欲しい。その他の家具は適当に見繕ってくれ」

部屋を回った。各部屋は普通のマンションのLD分ほどの大きさで、全部で9部屋あった。ここを寝室にして、ここを書斎。ゲストルームはここか。頭の中で見積もりを立てて行く。くそっ。せめて計算機を持ってくればよかった。携帯に入力しながらそう思った。一回りして帰ってくると、ダリが言った。「いくらだ?」まあ、そう来るだろうなとは予測していた。

僕の持っている情報量はあの戦車とこのマンションと奥様の身なり・所作とダリの言ったリクエストのみだ。ダリの目。もう疑いようもない。完全に僕を試している。

「1200万から3000万です」

ダリの目が少しだけ驚きに揺れた。
今だと思った。
やっとこちらの順番が回ってきた。

「あなたのリクエストに「できません」とお断りするのも、内緒で値段を高く吊り上げるのも、僕らに取って実は簡単です。しかし、僕らの想像の及ぶ限り、そのリクエストに見合った最高の家具と空間を公平にお作りすると、その金額になります。デザインはゴシックベースで行きます」

1200万と3000万の差は彫刻や象嵌を入れるか否かの差であった。ダリが初めて笑った・・ように見えた。そして言った。

「高い方でやってくれ」

帰り道、僕は息を詰めながら長い塀の坂を下った。足がふわふわしていた。大工工事抜きで一件3000万の受注は初めてだったからだ。外苑西通りに出た。いつもの風景。僕はようやく詰めていた息を吐き出した。携帯を取り出す。

ナツ「もしもし?社長?無事ですか?」
僕「ん?なんだ?」
ナツ「だって誘拐されたって・・・」

誘拐ね。誘拐ではないけど、確かに何かを根こそぎ持ってかれたような気がする。少なくとも僕の常識の天井は完全にダリによって破壊された。くそ。いつか1000万の金額に見合うリビングボードを作ってやる。

僕「まだまだウチは大きくなるな」

そう言って携帯を切った。

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後日譚 1

あの部屋に連れて行かれたショップは僕で4人目だったそうだ。賃貸価格は300万/月。そして、ダリとは今はもう連絡が取れない。ただ、風の噂では彼はロンドンまであの時の家具を持って行ってくれたらしい。

後日譚 2

その後リーマンショックの猛威が東京を襲い、それを皮切りに東京は例のフワフワ感を失ってしまった。超のつく金持ちもどこかに消えてしまった。

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2015年現在。

僕「ダリ憶えてる?」
ナツ「あーー」
佐々木「懐かしいですね」
僕「あの時、凄い客多かったよな」
ナツ「でも、最近戻ってきてるよ」
佐々木「ですね」

そうなのだ。今、東京は再び活気を取り戻しつつある。

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そして・・。
あれから9年。
今、僕らは1000万のリビングボードを作ることができるまでに成長している。

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おしまい。